キスからはじまる
「それでね、なんて言ったと思う!?」
お昼休み。
メグちゃんは、持っているお箸が折れそうなほどに握りしめ、怒りをあらわにした。
ああ、可愛らしい水色のお箸がっ!
「俺は疲れてるんだー、だって!そっちから会おうって誘ってきたくせに、ひどくない!?」
…どうやら、昨日のデート中、ダイくんと喧嘩になってしまったみたい。
ふたりが喧嘩なんて、珍しい。
ダイくんがそんなこと言っちゃったなんて、よっぽど疲れてたのかな?
だけど、それをデート中にメグちゃんに言うのは、間違ってるよね。
それに、メグちゃんが怒ったってことは、あきらかにおかしいシチュエーションとタイミングで言ってきたってことだと思うし。
「もー、むかつくっ!ダイと会わずに胡春と街に行けばよかった!」
メグちゃんはそんなことを言ったけど、わたしと街に行く理由は、ダイくんの誕生日プレゼントを見に行くんだったんだけどね。
「ダイくん、きっと今ごろ反省してるよ!」
「そうかな?そうだといいけど」
メグちゃんともっと話していたいけど、お弁当を食べ終わったわたしは、ある場所へ行くことを決めていた。
“彼”はお昼を食べ終わると、分厚い本を持って教室をあとにしたのをわたしは見逃さなかった。
きっと図書室へ行ったんだ。
「メグちゃん!わたしちょっと行くところあるから、行くねっ」
お弁当を片付けたわたしは席をたった。
「?うん、行ってらっしゃい」
メグちゃんに行き先を聞かれなかったので、内心ほっとした。
実は、メグちゃんには昨日のことを話していないのだ。
事故でも世良くんとキスしちゃったなんて、言えないよ。
今から世良くんに謝りにいって、それで今回の一件を終わらせる。
ちゃんと謝れば、世良くんもきっと許してくれて、なにもなかったことにしてくれるよね。
それが前提かのように考えながら、図書室へと足を進めた。