キスからはじまる
「はい」
世良くんはすぐ近くにある引き出しから勝手に大きめの絆創膏を取り出してわたしに差し出した。
はい、って…。
でも、たしかに片手じゃ、貼りにくいよね…。
わたしはようやくそこから足を動かして、世良くんの手から絆創膏を抜き取った。
ペリッと外装を開く。
さらに世良くんに近づいた。
自分から彼に近づいたのははじめてだった。
これは絆創膏を貼ってあげるだけだ。
なにも緊張することはない。
それなのに、わたしの手は震えてしまいそうだった。
世良くんは背が高い。
だからわたしが見上げなければ、彼と目を合わせることはなかった。
だけど今は、世良くんはソファに座っているためわたしと目線の高さがほぼ同じになっている。
それだけで緊張が増した。
ゆっくりと丁寧に絆創膏を貼ってあげた。
思ったよりたくましい腕をしてるんだな、なんて。
「ん、ありがと」
いつもより優しい口調でそう言った。
さあ、これでグラウンドに戻るだろう。
そう思って安心したのに、世良くんは動こうとしなかった。
「もうすぐ授業終わるし、このままここにいようかな」
そんなことを言って正していた背中をソファにつけた。
世良くんの気持ちは、わかる。
わたしも世良くんだったら、残り数分ならそうしていたかもしれない。
だけど、今は困るよ。
わたしがどうしていいかわからないじゃないか。
次の授業は教室で受けるから、今からベッドに戻るわけにはいかないし、やっぱり、彼の隣に腰かけることはできないし…。
どうしよう…。
短い時間迷った末、
「世良くんはどうしてわたしに…」
その質問を途中まで口にしてしまった。