キスからはじまる
「ほら。ストレス軽減させてくれないの?」
そう言って顔を少しだけ近づけてきて、そこで止まった。
これはもしかして…わたしからしてということ…?
ッそんなの…!!
「そんなのできるわけない…っ」
顔を思い切り背けた。
自分からキスなんて、できるわけない。
しかも、わたしがする必要なんてないはずだ。
さっき言ったとおり、世良くんを好きな女の子はたくさんいる。
それなら、自分のことを好きな子からされたほうが、軽減効果が高いんじゃ…?
「最初は西埜からしてきたのに、できないの?」
耳を彼のほうに向けているので、まっすぐに言葉が耳に注がれた。
「ッそ、それは事故で…!」
決してわたしの意思じゃない…!!
そのことを掘り返すなんて、世良くん、意地悪だ…。
世良くんってこんな人だったの?
知らなかった。
わたしが話したことがないだけで、他の人にもしゃべるとこうなのかも。
事故キスに関してはすでに謝ったんだから、もうなかったことにしてほしいよぉ…。
そんな気持ちで瞳をぎゅっと閉じた。
思い出すとますます頬が熱くなる自分は、わたし自身、なかったことにはできてないのかもしれないけど…。
「…顔、真っ赤」
くすりと笑われた。
うう…恥ずかしいよぉ…。
世良くんは余裕な様子だ。
彼はいつだって余裕そうな雰囲気を持っている。
だけど気取ってはいなくて、嫌みっぽくない。そこがちょっといいなって思ってた。
「リンゴみたいで、おいしそう」
そう言った世良くんは、ソファに手のひらをついて、わたしの真っ赤になった頬に唇を近づけチュッ…と口づけた。
固まるわたし。
「また、熱、あがったんじゃない?次の授業も休んだほうがいいかもね」
最後にそう言って、保健室から風のように消えた。
また、キス、された……っ。
──3回目の、キス。
外にいた世良くんの唇は冷えていて、わたしの頬の熱を一瞬だけ冷ました。