キスからはじまる


「期末テストに向けて頑張ろうかなと思って!」


こんなセリフが自分から出てくるとは。


「まだ1ヶ月先なのに、胡春えらい!」


そう言われ、若干照れ臭くなった。


「わからないところあったらいつでも言ってね!」


「メグちゃんたのもしいよ~!」


どうしてわたしがここ数日でいきなり勉強熱心になったのかというと。


いや、熱心というほどではない。


でも、さすがに分からないまま放っておくことはだめだと思い始めた。


それは──世良くんの、影響。


数日前、保健室でT大を目指していると教えてくれた世良くん。


世良くんはまだ1年生なのに、すでに先を見据えていて、トップの成績をキープしている。


見習わなきゃいけないと思い知らされた。


あの次の日から、わたしは以前より、真面目に授業を受けようという気持ちになったのだ。


わざわざ彼にお礼を言ったりはしないけど。


というか、わたしから話しかけるなんて、できるわけない。


例えばあの事故キスより前に世良くんに話しかけなければならない用事があったとしたら、わたしは気軽に声をかけることができたと思う。


だけど、今はきっとできない。


できれば話しかけたくない。


世良くんに見つめられたら、またリンゴのようになってしまうと思うからだ。

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