キスからはじまる


同じクラスである彼のほうをチラリと見る。


彼の名前は世良匠(せらたくみ)。


この高校を首席で入学して、今なおトップの成績をおさめている。


だからみんなから一目置かれている。


すごいなあ、100点なんて、小学校以来、とってないよ。


みんなのなかで世良くんイコール秀才というのはとっくに染み付いているけれど、秀才ということ以外でも、彼はほかの男子とは少しちがう。


休み時間はいつも本を読んでいるし、たいてい一人でいる。


でも、しゃべることが苦手とか、人見知りとかではなくて、たんに一人でいることが好きなのだと思う。


その証拠に、グループ活動等ではふつうに話しているのを見たことがある。


だけど、表情豊かではない。


ポーカーフェイス、っていうのかな。


わたしは、席が近くなったりグループが一緒になったことがないから、入学してから一度も話したことがない。


2年になるまでに、一度くらいは、話してみたいな。


わたしはクラスメイトとして素直にそう思う。


だけど、たんに“クラスメイトとして”じゃない女の子は、きっとたくさんいる。


だって、世良くんはとてもとても魅力的な容姿の持ち主だから。


175センチの身長に、スラリとした体格。


サラサラな黒髪で、前髪は少し長め。


顔の特徴も細かく述べたいところだけど、ちゃんと間近で見たことがないため、やめておく。


でも、正面から見なくたって、スッと背筋の伸びたその後ろ姿だけで、人を惹き付け、そのなんともいえないオーラで、女の子たちを魅了する。


だから告白もよくされているようだけど、だれかと付き合ってるとか、そういう類いの話は一度だって聞いたことがない。


もしかしたら、恋愛に興味がないのかもしれない。


ミステリアスな、世良くん。


一度も話すことなく、残り2ヶ月、今学期を終えてしまう可能性は──大いに、ある。

< 4 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop