キスからはじまる
すぐに“映画化!!”というポップが目に飛び込んできて、そこに並んでいたのはちょうどその原作本だった。
すごい、やっぱり人気なんだな~!
その本を1冊手に取って──その1冊の本の上で、同じタイミングで横から伸びてきた手とわたしの手が、触れ合った。
「っ!あ、すみませんっ」
思わずパッと手を引っ込めた。
「こちらこそすみません」
…え、この声って──
「せ、世良くんっ!?」
わたしの口からはつい大きな声が出てしまっていた。
だって、今目の前に立っているのは、まさかの人物、世良くんだったから──。
「西埜?」
さすがの世良くんもいつものポーカーフェイスが少し驚いた表情になっている。
「ぐ、偶然だね~」
平然を装って言葉を並べてみた。
世良くんと話すのは保健室でふたりきりになった以来だ。
ほんとに偶然だ。
世良くんと話すなんて、もうないと思っていたのに。
わたしはつい世良くんの服装をまじまじと見ずにはいられなかった。
グレーのコートに、中はエンジ色のニット、下は黒のスキニー。
…めちゃくちゃおしゃれ…!!
正直…めちゃくちゃかっこいい。
世良くんのことを好きではないわたしでも、服装だけでときめいてしまった。
「…なに?」
ポーカーフェイスで尋ねられた。
いけない、わたし、じろじろ見すぎ…っ!!
「ご、ごめん、なんでもないよ!それじゃあね──」
恥ずかしくなってその場を立ち去ろうとしたら。
「待って。この本、読みたかったんじゃないの?」
そう言って手に取ろうとしていたその本を差し出された。