キスからはじまる
「う、うん。今日、メグちゃんとその映画観に行って面白かったから、原作本も読んでみようかな~って…」
「そうなんだ」
「あ、で、でも、わたしもう帰らないと…」
世良くんのこのまま立ち話なんて、できないよ…っ。
「門限があるの?」
「うん、9時っ」
「9時…って、まだ、7時前だけど。西埜の家、ここから2時間もかかるの?」
「いや、えっと…ほんとは門限8時なの。9時に帰るつもりなんだけど…」
「?どういうこと?」
世良くんの言葉にハテナマークが付くのは当然だ。
わたしはさっきから矛盾したことばかり言っている。
「あのね、ほんとは門限9時だったんだけど、昨日お母さんと喧嘩しちゃって、8時にさせられたの。でも守りたくなくて、9時に帰ろうかな、なんて…あはは」
「…ふうん。西埜でも、反抗するんだね」
なんだか含みのある言い方をした。
「だ、だって、今度の水曜日のクラス会でも、すぐ帰らなくちゃいけないんだよ。わたしいつもひとりだけはやく帰ってるのいやなんだよね」
って、世良くんはわたしがこれまでのクラス会ではやく帰ってるのなんて、知らないと思うけど。
世良くんは、これまで4回行われたクラス会で、2回参加していた気がする。といっても男子に半ば強制的に連れられてたっけ。
「家、どこなの?」
ふいに質問された。
「家は、**郵便局の隣だけど…」
答えると、いきなり軽く手首をつかまれた。
「えっ?」
驚くわたしなんて無視して、世良くんはそのまま歩き始めた。