キスからはじまる
ショッピングセンターから出たわたしたち。といってもわたしは自分の意思で出たわけじゃない。世良くんに連れ出されたのだ。
空はもう真っ暗になっている。
「あの、世良くん…っ?どこ行くの?」
「ついてきて」
世良くんはそう言うと、ゆっくりと手を離した。
けっして強く握られたわけじゃなく、むしろとても軽い力だったのに、世良くんの感触がなかなか消えなかった。
わたし今、絶対赤い。
でも暗くてばれないはずだ。
また、リンゴみたいだなんて、言われちゃう…。
ついてきてって、いったいどこに行くんだろう。
世良くんってほんとに謎でしかないよ。
わたしたちのあいだに会話はなかった。
だけどむしろそれでよかったと思う。
世良くんの隣を少し間を空けて歩くだけでも、わたしは精一杯だった。
ふと、メグちゃんとの会話を思い出した。
『今度ふたりきりになることがあったら、世良に聞いてみたら?どうしてキスしたのか』
…さっそく、ふたりきりになってしまった。
だけど、そんなの恥ずかしくて聞けないよ。
だって、『世良、胡春のこと好きなのかな?』世良くんがわたしのことスキなわけないもん。
だったらやっぱり、ストレス軽減のほうが納得できる。
頬にキスしたのは…気まぐれ、かな。
キスされて嫌ではなかったのは事実だから、追及する必要もないかもしれない…。
なんだか自分がいけない子になってしまったみたい……。
だけど今日メグちゃんに話せてよかったな。
そのおかげで秘密をかかえていた心が少し軽くなった。