キスからはじまる
キス5
辺り一面のチューリップ畑。
赤、ピンク、黄色、オレンジ、白…何種類もの色が順番に並んでいる。
わたしはお花のなかで、堂々と可愛らしく咲き誇るチューリップが小さい頃から大好き。
『胡春』
だれかがわたしの名前を呼んだ。
この声、知ってる。
『胡春』
さっきよりもはっきりと聞こえてきた。
わたしはチューリップを眺めている目線を後ろにやった。
そこにはさっきと変わらないチューリップを背景に、“彼”が微笑んで立っていた──。
彼はわたしに一歩一歩と近づいて……ゆっくりと、顔を近づけた。
ドキドキと鼓動が速くなる。
彼の透き通るように綺麗な黒い瞳と、目線が交わった。
次に、彼はゆっくりとわたしの唇に瞳を落とした──。
それだけでわたしはもうとらえられたように動けなくなる。
きっと、なにされたって、反抗できない。
彼はそっと、引き寄せられるように唇を近づけた──
「胡春、起きなさい!遅刻するわよー!?」
ドンドンドン!
んん?
「いつまで寝てるのっ!?」
ドンドンドン!!
「世良く…………ハッ」
目覚めたわたしは、ガバッ!と勢いよく起き上がった。
扉の向こうのお母さんが去っていく足音が聞こえてきたと同時に、頭が冴えたきた。