キスからはじまる
「さーてと。わたしはお手洗いへ行ってきまーす」
メグちゃんがにやにやしながらそう言って立ち上がった。
「松木、胡春のこといじめないでよね~?」
「ええ、メグちゃん。松木くんは優しいよ?今もりんご頼んでくれたし」
「ちなみにわたしはカルピスね。松木、たのんどいてね~」
言いながら向こうに行っていった。
「ああ、メグちゃんもグラス空だったんだあ」
「ほ、ほんとだ。すみませーん、カルピスひとつ」
若干歯切れ悪そうに店員さんにそう告げた松木くん。
「メグちゃんってば松木くんのこと勘違いしてるよ。松木くんわたしのこといじめたりしないのにねっ。すっごい優しいのに!」
思わず真剣にそう言うと、松木くんは照れたように笑った。
その笑顔は犬みたいで、松木くんはやっぱり癒し系だなあと思った。
そのことを本人にいうと、「西埜のほうがよっぽど癒し系だよ」と返された。
「ええ、そうかなあ!?癒しっていうより、ぼーっとしてたり行動がとろいだけだよっ」
「とろいって!西埜、おもしろい」
松木くんはいつもニコニコしてて、話しやすい。
一度告白を断ってしまったのに、わたしが気まずくならないように話しかけてくれて、今ではすっかり仲のいい友達。
松木くんのこと好きな女の子、このクラスに絶対いると思うけどな~!?
そんなことを考えていると、「田中先生のモノマネやりまーす!」とクラス1のムードメーカーが立ち上がった。
このクラスは面白い人も多くて、9月の運動会でも盛り上げてくれた。
特徴をとらえすぎているモノマネに、みんなが湧くように笑う。
こうしてまた、クラスのなかが深まっていくのをわたしは実感して、嬉しくなった。