キスからはじまる
さっきまでみんなで楽しくわいわい盛り上がっていたはずなのに、その余韻は、一瞬にして消えてしまった。
松木くんが、わたしのことを……。
返事、どうしよう……。
帰ってからゆっくり考えようかな…。
そう思いながら焼肉屋を曲がった、そのとき。
「ッ!」
わたしの足はピタッと止まり心臓が高く跳び跳ねた。
だって、曲がったすぐそこに背の高い誰かが立っていて、うちの制服が目に飛び込んできたから思わず見上げると、その人物はわたしより数分はやく退席したはずの世良くんだったから──。
「世良く…ッ」
びっくり。
ほんとにびっくりしてるよ、わたし。
どうして世良くんがここにいるの?
「電車、間に合う?」
驚きすぎて目を真ん丸にさせているわたしに、そう尋ねてきた。
ああ、そうだ、電車。
わたしは今日8時までに帰らなきゃいけないんだった。
「えっと、急げば…」
「そっか、よかった。じゃあ行こう」
「えっ」
「8時過ぎると怒られるかもよ」
「あ、う、うんっ」
世良くんの背中にかけよった。
気づけば並んで少し早足で歩いている。
といってもわたしが早足なだけで、世良くんは少し大股で歩いているように見えた。