キスからはじまる
「あの、世良くん…?」
これはいったいどういうこと?
どうしてわたしは今世良くんと一緒に駅に向かっているの?
「ん?なに」
世良くんはポーカーフェイスを崩さない。
なにを考えているのかわからないよ。
「世良くんはなにか用事があるんでしょ?」
「なんで?」
なんで?って…。
「用事があるからはやく帰ったんだよね?6時開始にしたのも世良くんみたいだし…」
「用事なんて、ないよ」
当たり前かのように言う、彼。
わたしの頭はこんがらがってきて、一旦整理しようと考えた。
特に用事はない、世良くん。
6時開始にしてほしいと委員長にたのんだ世良くん。
わたしと同じタイミングで、退席した世良くん。
なぜか、お店の横に立っていた世良くん。
そして、今なぜか、わたしの隣を歩いている世良くん。
……世良くん、もしかして、わたしのために6時開始にしてくれたの……?
自意識過剰ながら、そんな考えが浮かび上がってきた。
だけど、そんなの恥ずかしくて聞けない。
でも、でも。
わたしを待っていたとしか思えないこの状況。
……ドキドキして、世良くんのこと、もう見上げられないかも……。
よかった、もうすぐ駅に着く…。
「わ、わたし、ここで……ひゃ…っ」
ドキドキがばれないまま駅のなかにはやく入りたかったわたしは、後ろからやって来ていた自転車に気づかないままショートカットしようとした。
次の瞬間世良くんに肩を抱かれ、足がもつれ彼の胸に飛び込んだ形になってしまった。
自転車がわたしたちの隣をシャッと通りすぎた。