キスからはじまる
「先にこっちの式を書きたい気持ちはわかるけど、これはあとで書くんだよ。先に左辺の式を…。…西埜、きいてる?」
「う、うんっ」
わたしのばか、せっかく世良くんが間違いを指摘してくれているのに。
わたしは必死で頭のなかを勉強モードに切り替えた。
「…で、このあとにさっきの式を持ってくる。…わかった?」
「な、なるほど…!」
さすが世良くん、教え方が分かりやすい。
世良くんの頭のなかではすべての式が出来上がっているんだろうなと思う。
「この問題は、わかる?」
世良くんがそう言って指差したのは、メグちゃんに聞いたにも関わらず、未だに理解していない問題だった。
「お、教えてもらってもいい…?」
遠慮がちにお願いすると、彼はくすりと口元だけで小さく笑って「もちろん」と言った。
優しいなあ…。
「この問題はたぶん期末テストに出ると思うよ」
「え、そうなの?」
「先生の言い方がそんなかんじだった」
「そ、そっか!!」
世良くんが言うなら間違いない気がする。
今完全に覚えるようにしなきゃ!!
たまたま世良くんに勉強を教えてもらう流れになっちゃったけれど、彼の教え方はやっぱり分かりやすかった。
トップの世良くんに教えてもらったら、なんだか自分までかしこくなった気がする。
「世良くん、ありがとう!」
そろそろ図書室を閉める時間になり、片付けながらそう伝えた。