キスからはじまる
「あんなキスして、ごめんね」
そんなふうにはっきり言われてしまえば、もうなかったことになんてできなくなるじゃないか。
思い出して、頬が熱くなる。
毎回毎回赤くなって、それこそ、恥ずかしい。
経験がないことなんてきっとバレバレだと思う。
わたしは小さく首を横に振った。
世良くんがわるいなと思っているなら、それだけで十分だと思った。
十分、なのに。
「…やり直しても、いい?」
彼はそう言ってわたしの腕に触れていた手のひらを、肩に滑らせた。
「え……?」
やり直し…って…。
ゆっくりと近づいてくる、世良くんの綺麗な顔。
ほんとにゆっくり。
なにをされるのかは、わたしの頭でもわかる。
今までのような、事故や、不意討ちなどではない。
拒むことならいくらでもできる。
だけどわたしは、自分の意思で、動かなかった。
視線が、交わって、絡まって、絡み付いて。
鼻と鼻がくっつきそうになったころ、瞳をそっと閉じた。
──瞬間、ふわりと触れた、唇。
6回目のキスは、前回とは正反対な──とてもとても、優しいキス。
あまりに優しすぎて、わたしは思わず、泣きそうになった。
わたしははじめて、自分の意思で、彼のキスを受け入れた。