キスからはじまる
「吉田16」
クジを引いた人から、順番に名前と数字を言っていく。
先生が数字の下に名字を埋めていく。
メグちゃんは一番廊下側のうしろのようだ。
ここ数ヶ月、連続で前のほうばかりだったメグちゃん。
今学期最後の席替え、うしろになってよかったね!!
わたしはと言うと。
「西埜4ですっ」
4っていったら、前から4番目の真ん中の列。
黒板に書かれた数字の位置を、今一度確認する。
やったあ、ど真ん中!!あったかそう!!
この寒い空間とやっとおさらばできるっ!
わたしは嬉しくて思わず口元が緩んだ。
「松木、30です」
松木くんが数字を言った。
30って言ったよね、30は……廊下側の前の席だ。ようするに、わたしとはまったく近くない。
内心、ホッとした自分がそこにはいた。
わたし、やっぱり松木くんのことは友達としてしか、見れない。
でも、すっごくいい人だから、ちゃんと付き合って“彼氏”という存在になれば、もしかしたら好きになれるかもしれない。
“付き合ってから好きになる”っていう恋愛も世の中にはあるみたいだし、松木くんの気持ちはほんとうにうれしかった。
だけど、わたしは前向きに付き合ってみよう、とは思えなかった。
2度目の告白をされてから、2週間が経った。
この2週間のなかで、わたしは松木くんにたいして好きになれそう、と思えなかったのだ。
そろそろ、返事をしないといけない。
これ以上待たせてしまえば変に期待させてしまうかもしれない。
ずるいかもしれないけど、金曜日の夜に連絡しようと思う。
いくら松木くんでも、今回もまたお断りしてしまったら、気まずい関係になってしまうかも…。
それはやだな…って、そんなの都合よすぎだよね、自分。
大丈夫、わたしは自分の気持ちを大切にしなきゃ。
わたしはそう前向きに考えた。
「世良、25」
頭のなかでいろいろ巡らせていると、そのとき告げられた名前、数字、そしてその透き通るような綺麗な声は、はっきりとわたしの鼓膜を貫いた。
どきっ──と心臓がジャンプした。