キスからはじまる


「…仲井リカちゃんって知ってる?」


お昼休み。


わたしはおにぎりを1つ食べ終わったところで、小さめの声でメグちゃんにそう尋ねた。


「リカちゃん?うん、同じ中学だからもちろん知ってるよ、C組の子でしょ?」


「そ、そうそう」


メグちゃんに怪しまれないように、わたしは平然を装った。


「リカちゃんがどうかした?」


お茶を一口飲んで、ペットボトルから唇を離すと首を少し傾けたメグちゃん。


「す、すごい可愛いでしょ?どんな子か気になって」


今日、移動教室のときにC組の前を通った。


そのときに仲井さんをこっそり見た。


仲井さんは可愛いと有名だから、名前と顔は、前から知っていた。


「すごいいい子だよ、可愛い上に、明るくて面白い子。中学のときもかなりモテてたかな~」


「そ、そうなんだあ」


可愛いくて、明るくて、面白いって……最強じゃない?


さすが世良くん、モテる子にモテるって……。


そ、それにしても、メグちゃんが言うってことは、仲井さんってそんなにいい子なんだ…。


わたしはまだ、世良くんに手紙を渡せないでいる。


机の奥に、しまったままだ。


もしかしたら、仲井さんが席替えしたことを気づくかもしれないと思ったけど、これまでの時間、このクラスをのぞく彼女は見かけていない。


今日の放課後呼び出したわけだし、その上のぞきにくるなんてことはしにくいのかもしれない。


だったらもう放課後まで、席替えしたことをしらずにいる可能性が高い。


わたしが世良くんにこの手紙を渡せば、すべてが丸くおさまるのは分かってはいるんだけど……。


「あれ、胡春、おにぎりもう一個、残すの?」


「…うん、お腹すいてなくて。今日の夜食べるよ」


胸がもやもやして、食欲もわかなくなってしまった──。

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