キスからはじまる
仲井さんは、今も体育館裏で待っているにちがいない。
そのことは当然世良くんは知らない。
それを知っているのは、きっと仲井さんのクラスの友達と、わたしだけだろう…。
可愛くて、明るくて面白くて性格もいいモテる仲井さん。
世良くんの恋愛事情は、これまでひとつも耳にしたことがない。
告白されても、断っているらしい。
だけど…仲井さんみたいな子に告白されたら、世良くん、もしかしたら………。
嫌、だ…。
嫌だ。
だから、渡せなかった。
渡したくなかった。
だけど……わたし、こんなことして、いいの……?
ずっともやもやしてる。
このもやもやは──“嫌”の気持ちよりも、仲井さんへの申し訳なさから来ているものだ。
こんなことして、いいわけない。
人の恋路を邪魔するなんて……最低な人がすることだ……。
わたしは思い直して、立ち上がった。
急いで教室を飛び出した。