キスからはじまる
「実は、その手紙、今日の朝わたしの机に入ってたの。その女の子、席替えしたこと知らなくて、間違えて入れたんだと思う…」
なにか言われる前に、自分から説明した。
でないと、いくらなんでも仲井さんに申し訳ない。
世良くんは事情を理解したはずだ。
それなのに…世良くんは動こうとしなかった。
学校に戻ろうとしなかった。
「世良くん…行か…ないの?」
体育館裏に…。
正門はすぐそこだし、体育館だって一番手前だし…もし断るにしても、すぐに行ける、よね?
世良くんは手紙をブレザーのポケットにしまうと、小さく口を開いた。
「西埜が行ってって言うなら、行くけど」
そんなことを告げた。
もちろん、いつもの口調。
わたしは瞳だけ丸くさせた。
それ以外は寒さのせいか、動かなかった。
冷たい風が頬を切る。
もし朝一から手紙がちゃんと世良くんのもとへ渡っていれば、今頃世良くんとふたりきりになっていたのはわたしではない。仲井さんだ。
どうしてわたしが、ふたりきりになってるの?
道端だから、ふたりきり、ではないけれど。