キスからはじまる


『来週の月曜日、忘れないでね』


教科書とノートの隙間にのぞく、最初より少しだけ薄れたその文字を緩みそうな口元を我慢して眺める。


ついにやってきた“月曜日”。


世良くんが、放課後に図書委員の日。


今日は英語を教えてもらいたくて、普段授業中には使わない問題集を持ってきた。


数学の次に苦手なのが、英語。


受動態とか不定詞とか、…今やってるところ、もうさっぱり。


このままじゃ、70点以上なんて、絶対むり。


世良くんにドキドキして勉強どころじゃないかもしれないけど…頑張らなきゃ!


「あ、西埜、数学のプリント出した?」


昼休み。お手洗いを済ませ、教室に入ろうとしたら、ちょうど出てきた松木くんと鉢合わせした。


彼の手には、土日の課題だった今日提出する数学のプリントが。


「だ、出してないっ」


わたしは慌てて自分の机の中からプリントを取り出し、松木くんに手渡した。


慌てたのは、相手が松木くんだったからっていうのも…ある。


「おねがいしますっ」


「は~い。…あれ、西埜、名前が途中になってるぞ?」


「えっ?」


彼の言葉に、よく見ると、“西埜胡”まで書いて“春”がなかった。


「あ、あれ!?」


わたしは急いで“春”を付け足した。


「ふはは!さすが西埜、天然だな~」


大きく笑う松木くん。


「なんで途中になってたんだろ…!?自分でも思い出せないっ」


わたしも自分のおっちょこちょい?に思わず笑ってしまった。


松木くんは「期末テストのときはやらかしたらだめだぞ~!」と言いながら職員室に向かうのだろう、教室を後にしていった。

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