キスからはじまる
寝顔、見たい…。
つい、そんな欲が出てしまう。
世良くん、起きませんように…!!
わたしは心のなかで5回ほどそう唱えてから、音をたてないようにイスから立ち上がり、世良くんの顔が見える位置に移動した。
見てしまったが、最後。
そのあとは、ただ、ひたすら見とれてしまうだけ。
かっこいい、綺麗、可愛い……。
すべてがほどよく交わった、心揺さぶられる世良くんの寝顔。
睫毛は女のわたしよりも長いんじゃないだろうか…。
鼻なんてすんごく高くてスッとしてて…。
肌もめちゃくちゃ綺麗…特別な手入れでもしてるのではと気になってしまう。
──ずっと、見てられる。
寝顔ひとつで、こんなにも、魅せられている。
こんな人と、わたしは今まで……。
なんだか、信じられなくなってきた。
わたしみたいなどこにでもいそうな女の子に、世良くんはどうして……。
ねえ、世良くん。
どうしてわたしに、キス、するの?
だったらわたしからも、しても、いい──?
──好き。
たった一言。
その気持ちを込めて、わたしは彼の頬に唇をそっと落とした──。
「…ん……」
唇をゆっくりと離したあと、彼の口からそんな声が漏れて、驚いたわたしは音をたてないようにして後ずさった。
……よかった、起きてない。びっくりした…。
でも、そろそろ起こさないといけない時間だ。
世良くんの肩に手を伸ばそうとした、そのとき。
「………ルミ…………」
静かなこの空間のおかげで、その声はたしかにわたしの耳まで届いた。
……え……?
手が止まる、わたし。
8回目のキスは、世良くんは──知らない。
その代わり、彼は、わたしの知らない女の子の名前を夢の中で呼びました。