キスからはじまる
いいなあ。クリスマス遊園地なんて、憧れちゃう。
わたしも世良くんとデート、したいなあ…。
そんな夢みたいなこと、かなうわけないけど…。
メグちゃんには“脈ありでしょ”って言われるし、わたしもあの瞬間まではそう思っていたけれど…
あの瞬間から、わたしの小さな自信は木っ端微塵になった。
そのことは、メグちゃんには言っていない。
“もしかしたら、彼女がいるのかも”それを口にすることさえ、わたしは逃げてる。…考えたくもないんだ。ただの片想いのくせに。
それに、こんな幸せそうなメグちゃんを見ていると、ますます言いづらくなった。でも、いいや。メグちゃんが幸せだと、わたしもうれしいから。
「そういえば胡春、体調は大丈夫?」
メグちゃんはハッと思い出したように眉を下げてたずねてきた。
月曜日の眠っている世良くんのことがあった次の日、明るく振る舞っていたはずなのに、ふと悲しい表情が出てしまったのか、メグちゃんに心配されてしまった。そのとき、「風邪で体調がよくない」と咄嗟に言ってしまったのだ。
「うん、大丈夫だよっ」
ほんとは風邪なんてひいてないのに…誤魔化してごめんね。心のなかで謝る。
「来週はもっと冷え込むらしいから、カイロ貼っとかないとね」
「うん、そうする!!」
そんな会話をしていると、順番がやってきた。
わたしもメグちゃんも人目で合格。どうだ、って気持ちがいいくらいだ。
身だしなみを終わった人から、もう放課となる。わたしたちは並んで体育館の出口に向かおうとした。
「おーいっ」
そのとき、まだ順番待ちをしている男子の列のなかのひとりが、合格して帰ろうとする女子の集団に小さな声で声をかけてきた。