キスからはじまる
心臓が口から飛び出そうになった。
世良くんとは何度もふたりきりの空間を過ごしたし、その上キスまでしてるのに…。
目があっただけで、こんなにもドキドキする。
わたしやっぱり、世良くんが好き。そう、再認識させられた。
「世良くん、よかったら…」
わたしの横を通りすぎて、女の子が世良くんに校章を差し出した。
後ろからメグちゃんが小さく息を吐いたのがわかった。
メグちゃんの行動の意味をわたしは今さらながら理解した。
メグちゃんは、わたしが世良くんに校章を貸しやすいように男子にあらかじめ渡したんだ。そして、背中を押してくれたんだ。ああ、メグちゃんの応援を裏切ってしまった。そのことにもショックを受ける。そして、他の女の子に抜かされてしまったことに。
でもきっと、世良くんはだれからでもいい。だって、だれの校章も同じものだ。大きさも形も色も同じ。ちがうものなんてない。だからきっと──
「…西埜、貸してくれる?」
わたしの前に、大きな影ができた。