キスからはじまる


「ねえねえっ、胡春ちゃん、世良くんと付き合ってるの!?」


身だしなみが終わった人から帰っていい。だけどわたしは世良くんに校章を返してもらわないといけないため、それまで席についておくことにした。もうすぐ男子の集団が戻ってくるだろう。メグちゃんは用事があるようで先に帰ってしまった。


女の子3人組が話しかけてきた。そのなかに、世良くんに校章を差し出した子もいた。


よかった、3人組に怒っている様子は見られない。さきほどのメグちゃんみたいに、興奮しているようだ。


わたしはあわてた誤解を解いた。「付き合ってないよ!」と。


「ええ、あやしい~!さっきの、完全にそういう雰囲気だったじゃーん!」
「うんうん、見てるこっちがドキドキしちゃった!」
「隠さなくたって、世良くんと胡春ちゃん、お似合いだよ!?」


完全に付き合っているかのような流れになってきている。これはまずい。世良くんに申し訳ないよ。たしかにさっきの出来事は勘違いされてもおかしくないけど…わたしにはまったく確信は持てないんだ。それくらい、“眠る世良くん”は破壊力があった。


ここは逃げよう。即座にそう判断した。わたしにしては、即決だったと思う。


わたしはカバンを肩にかけ立ち上がると、「ごめん、用事あるから帰るね」と急いで教室から去った。少し感じ悪かったかもしれない。今日が金曜日でよかった。あの子たちも、土日を挟めば忘れてくれるはずだ。そう考えながら階段を駆け足で下った。

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