キスからはじまる
「来週からテストはじまるね」
世良くんはそう言って歩き出した。わたしこそこっちの方向のため、並んで足を進める。
駅まで送ってくれるのかな。どぎまぎしてしまう。
「この土日、勉強頑張らなきゃ」
「西埜なら大丈夫だよ」
なんでそんな、いちいち嬉しいことを言うの。
「世良くんに教えてもらったから大丈夫な気がする」
たしかにわたし、門限も大事。だけど一番は、世良くんに自信持って見せたいからなんだよ。恥ずかしい点数、見せられないよ。世良くんより高い点数を取ることは、さすがに難しいけれど。
「俺は少し教えただけじゃん」
二回だけ、と付け足した。
そんなことない。その二回が、わたしはどれだけうれしかったか。世良くんとふたりきりになれたなかの、貴重な二回だったの──。
「……なんか、あった?」
「え?」
ふとした投げ掛けに、彼を見上げた。
歩いたまま、交わる視線。
「…最近、元気ないから」
控えめなのに、しっかりと、言った。
「…っ」
…言えない。だって、理由が世良くんのことだから……。
「気のせいだよ。わたしと世良くん、教室で話さないのに分から」
分からないよ。分かるわけないよ。目さえ、合わせてないのに。
「わかるよ。俺、西埜のこと見てるから」
胸がぎゅってつかまれた気がした。──そんな、期待、させるようなこと。
わたしのほうが、世良くんのこと、見てる。
世良くんも、わたしのこと、見てたの?まったく、気づかなかった。
それなら今度からは、一日一度でいいから、目が合いたいよ。