キスからはじまる
……ああ、どうしてこんなにも、駅は近いの。
どんなに寒くたっていいから、もう少し先にあってほしかった。世良くんともっと一緒にいたかったよ。
「…それじゃあ」
駅のなかに入ろうとした。
「…24日」
その前に、隣の彼がポツリ、とつぶやいた。
「え?」
世良くんの目線は、すぐ横にある木でできた掲示板。今は大きなポスターが張られている。街の近くの城山で行われているイルミネーションのポスターだ。それを、見ながら。
「…行こっか、ふたりで」
カンカンカン…遮断機が下りる音と重なったけど、彼はたしかにそう言った。
“どこに?”なんて言葉がでなかった。
一瞬にして、汗がかいてくる感覚がする。
緊張と、戸惑い。
だけど、断るわけなんて、あるわけない。
喜びで胸がきゅうっとなった。
変に大人ぶりたくなくて、この喜びをそのまま伝えたくて、「行きた…」
い。までいい終えるころ。ブワッ!と冷たくて強い風が顔面に飛んできて、わたしは思わずぎゅっと目を閉じた。
うわ、今、絶対変な顔してた…!!
さいあく、と思ったのに、世良くんはわたしの乱れまくった髪の毛を整えはじめてくれた。
うう、恥ずかしい。風の馬鹿。