光のもとでⅡ+
Side 翠葉 10話
ケーキを食べ終えリビングへ移動すると、ふと思い出したことがあり、ツカサのタブレットを借りることにした。
「何か調べもの?」
ソファに座らず私の隣に腰を下ろしたツカサにたずねられ、
「うーん……調べものというより、芸大のサイトを見たくて」
「なんで?」
「あのね、私、器楽科のピアノコースを受験しようと思っているのだけど、副科でハープを選択しようと思っていて――」
目的のページへたどり着くべく、何度もタップを繰り返す。
「でも、先日ちらっと見たら、お目当ての先生の名前がなくなっていたのよね……。それがちょっと気になって」
ハープ講師の一覧を表示させると、
「目当ての先生がいたとして、その先生に教えてもらうことができたりするの?」
「そこはちょっとわからないのだけど、でも、私がやりたいのはグランドハープじゃなくて、アイリッシュハープなの」
「何が違うの?」
「グランドハープはクラシック寄りで、アイリッシュハープは民族音楽より……かな? あーでも、グランドハープは半音階を自由自在に使えるから、ジャズなんかも弾けたりするのだけど」
「アイリッシュハープは?」
「アイリッシュハープでもレバー操作をすれば半音階を使うことは可能なのだけど、演奏の途中でレバー操作をする都合上、グランドハープほど操作性能がいいわけじゃないというか……。あ、グランドハープはね、足元に六本のペダルがついていて、それをガタガタ踏むことによって半音階操作をするのよ」
たぶんこれは言葉で説明するより画像を見せたほうが早いだろう。
そう思った私は違うタブを開き、グランドハープを表示させた。
画像を見てツカサが納得したのを確認すると、大学のサイトへと戻る。
「グランドハープを習うとしたら、楽器のレンタルをしなくちゃいけなくなるし、できれば今使っているアイリッシュハープを習いたくて……。……やっぱりいなくなっちゃってる」
何度見てもハープ講師の一覧に目的の名前は見つけられなかった。
「なんていう先生?」
「加賀見正司先生」
ツカサがタブレットで検索を始めると、割とすぐに検索に引っかかった。
「この人、短大へ異動になったみたいだけど?」
「えっ? そうなのっ!?」
身を乗り出してタブレットにかじりつく。と、確かに大学側に載っていたプロフィールがそのまま短大側のサイトへ移されていた。
「本当だ……。この四月から短大へ異動になったのね……。しかも、短大のハープの先生って加賀見先生しかいないんだ……。っていうことは、ハープを選択したら、間違いなく加賀見先生に教えていただけるということよね……?」
「翠はピアノを勉強したいの? それともハープ?」
どうしてそんなこと……?
「どっちもだけど?」
私の返答の何がおかしかったのか、ツカサは「ぷっ」と小さく吹き出した。
「受験、短大に変えようかな……」
「四大じゃなくていいの?」
「んー……確か、短大から四大へ編入手続きできる制度があったはず……」
確かサイトのこの辺にそんなことが書かれていたような気が――
「あ、これっ!」
その項目をタップすると、それっぽい条件が提示されていた。
「成績優秀者に限り、四大への編入を認める、か……」
「だから、成績如何によっては無理なのだけど」
私は苦し紛れに笑顔を作って見せた。
八時四十分になりケーキプレートやお茶のカップを片付けようとすると、
「そのままでいい」
と断られてしまう。
確かに現況では洗いものをすることはできない。でも、食器を下げることくらいはできるのに。
「次来るときにはゴム手袋持ってくるし、素手で洗えるように手作りの液体石鹸も持ってくるっ!」
「そこまでしなくても別にかまわないのに」
ツカサはまるで興味を持ってくれず、さらっと流されてしまった。
八時五十分になってツカサの家を出ようというとき、
「翠、最後のキス」
そう言われて少し屈んでくれたツカサの唇へキスをした。
自分からキスをするのにも少し慣れた気はする。でも、やっぱりキスされたいな……。
「……私も、キスしてほしいな……」
そうお願いすると、ツカサは再度屈んでキスをしてくれた。
「何か調べもの?」
ソファに座らず私の隣に腰を下ろしたツカサにたずねられ、
「うーん……調べものというより、芸大のサイトを見たくて」
「なんで?」
「あのね、私、器楽科のピアノコースを受験しようと思っているのだけど、副科でハープを選択しようと思っていて――」
目的のページへたどり着くべく、何度もタップを繰り返す。
「でも、先日ちらっと見たら、お目当ての先生の名前がなくなっていたのよね……。それがちょっと気になって」
ハープ講師の一覧を表示させると、
「目当ての先生がいたとして、その先生に教えてもらうことができたりするの?」
「そこはちょっとわからないのだけど、でも、私がやりたいのはグランドハープじゃなくて、アイリッシュハープなの」
「何が違うの?」
「グランドハープはクラシック寄りで、アイリッシュハープは民族音楽より……かな? あーでも、グランドハープは半音階を自由自在に使えるから、ジャズなんかも弾けたりするのだけど」
「アイリッシュハープは?」
「アイリッシュハープでもレバー操作をすれば半音階を使うことは可能なのだけど、演奏の途中でレバー操作をする都合上、グランドハープほど操作性能がいいわけじゃないというか……。あ、グランドハープはね、足元に六本のペダルがついていて、それをガタガタ踏むことによって半音階操作をするのよ」
たぶんこれは言葉で説明するより画像を見せたほうが早いだろう。
そう思った私は違うタブを開き、グランドハープを表示させた。
画像を見てツカサが納得したのを確認すると、大学のサイトへと戻る。
「グランドハープを習うとしたら、楽器のレンタルをしなくちゃいけなくなるし、できれば今使っているアイリッシュハープを習いたくて……。……やっぱりいなくなっちゃってる」
何度見てもハープ講師の一覧に目的の名前は見つけられなかった。
「なんていう先生?」
「加賀見正司先生」
ツカサがタブレットで検索を始めると、割とすぐに検索に引っかかった。
「この人、短大へ異動になったみたいだけど?」
「えっ? そうなのっ!?」
身を乗り出してタブレットにかじりつく。と、確かに大学側に載っていたプロフィールがそのまま短大側のサイトへ移されていた。
「本当だ……。この四月から短大へ異動になったのね……。しかも、短大のハープの先生って加賀見先生しかいないんだ……。っていうことは、ハープを選択したら、間違いなく加賀見先生に教えていただけるということよね……?」
「翠はピアノを勉強したいの? それともハープ?」
どうしてそんなこと……?
「どっちもだけど?」
私の返答の何がおかしかったのか、ツカサは「ぷっ」と小さく吹き出した。
「受験、短大に変えようかな……」
「四大じゃなくていいの?」
「んー……確か、短大から四大へ編入手続きできる制度があったはず……」
確かサイトのこの辺にそんなことが書かれていたような気が――
「あ、これっ!」
その項目をタップすると、それっぽい条件が提示されていた。
「成績優秀者に限り、四大への編入を認める、か……」
「だから、成績如何によっては無理なのだけど」
私は苦し紛れに笑顔を作って見せた。
八時四十分になりケーキプレートやお茶のカップを片付けようとすると、
「そのままでいい」
と断られてしまう。
確かに現況では洗いものをすることはできない。でも、食器を下げることくらいはできるのに。
「次来るときにはゴム手袋持ってくるし、素手で洗えるように手作りの液体石鹸も持ってくるっ!」
「そこまでしなくても別にかまわないのに」
ツカサはまるで興味を持ってくれず、さらっと流されてしまった。
八時五十分になってツカサの家を出ようというとき、
「翠、最後のキス」
そう言われて少し屈んでくれたツカサの唇へキスをした。
自分からキスをするのにも少し慣れた気はする。でも、やっぱりキスされたいな……。
「……私も、キスしてほしいな……」
そうお願いすると、ツカサは再度屈んでキスをしてくれた。