光のもとでⅡ+
翠葉・十九歳の誕生日
Side 翠葉 01話
「なんでウィステリアホテル……?」
すごくいやそうな顔をしながらスーツを着たツカサにエスコートされ、ウィステリアホテルの四十階を歩いていた。
今日は私のお誕生日のお祝いデートで、静さんから「ぜひに」とウィステリアホテルでのランチに誘われていたのだ。
「ごめんね? 普段あまり使わないから、こういうときくらいはって静さんに言われてて……」
「ここだと翠がフリーパス持ってるから俺が支払いすることできないんだけど……」
「うーん……そこはもうご馳走になっちゃおう?」
宥めすかして歩いていると、前を歩く澤村さんにクスリと笑われる。
「翠葉お嬢様はなかなか当ホテルをご利用くださらないので、あの手この手でご利用いただくよう皆必死です」
「そんなことを言われても……。私、まだ高校生ですよ? こんな高級ホテルに来ること自体少ないです……」
「ですが、アンダンテのケーキはお好きでしょう? そのほか新作スイーツや限定ランチ、限定ディナーが出るたびにお便りを送らせていただいておりますが、未だ一度もいらしてくださらない。皆悲しみに暮れていますよ」
そこをつかれるとちょっとつらい……。
「本日の料理は料理長と須藤の合作ですので、ぜひご満足いただけるかと思います」
そう言われて個室へ案内されると、室内の調度品にはそぐわないものが用意されていた。
何って、ドレスが掛けられたハンガーラックとスタンドミラーが部屋の脇に置かれているのだ。
「これ、もしかして……」
「静様と湊様、園田の三人で選んだ翠葉お嬢様のドレスです。こちらはマリアージュの翠葉お嬢様専用クローゼットへ保管させていただきますので、本日はデザインをお楽しみいただけたら幸いです。それから、こちらの包みはフォトグラファー班からのプレゼントになります。電子式防湿庫とのことでしたので、ご自宅でのカメラやレンズ管理にお使いください。こちらは私が責任を持って司様のお車へ運ばせていただきます」
そう言うと、澤村さんは一礼をして、ひとつの包みをカートに乗せて、部屋を出て行った。
私は視線をハンガーラックへ戻し、
「またたくさん……」
その分量たるや、尋常じゃない。一着ずつ数えて行くと、やっぱり十着あるわけで……。
「ふーん。フルレングスが二着であとは膝丈やミモレ丈。これなら普段使いもできるんじゃない?」
ツカサは客観的に見てそんな意見を言う。
「でも、ドレスだよっ!? どう見繕っても、ちょっとオシャレしてディナーへ出かけましょう的なドレス! こんなの着る機会そうないよ~……」
「でも、家族で誕生日を祝うときはウィステリアホテルなんだろ?」
「うん。そうだけど……」
「じゃ、碧さんの誕生日、零樹さんの誕生日、翠たちの誕生日で三着。ほか、俺と翠の誕生日を祝うときに一着ずつ。クリスマスディナーで一着。残り四着……。じーさんの誕生パーティーでフルレングス一着。あと何かあるかな……」
「……お付き合い始めた記念日とか?」
「それもありじゃない?」
「あとはピアノの発表会でフルレングスが着られるかなぁ……」
「ほかだと、篠塚さんとこの新作発表会のレセプションパーティーに呼ばれることもあるから、そういう席でも着られるんじゃない?」
そんな提案があるとは思ってもみず、私はまじまじとツカサを見上げてしまった。
「……ツカサはなんでそんなに私にジュエリーを贈りたがるの?」
「似合うから……?」
「似合うからって――」
「好きな女を飾り立てたいと思うのは――……普通じゃないの?」
訊かれて困ってしまう。
「普通かどうかはわからないのだけど……でも、秋斗さんも髪飾りプレゼントしてくれたから、そういうものなのかなぁ……」
「第一、翠は飾り甲斐がある」
スーツ姿のツカサに真顔で言われて、私はうっかり赤面する羽目になり、頬の熱さを感じながら、見事なセッティングがされたテーブルにツカサと向かい合わせに座った。
「須藤さんの料理、久しぶり! ちょっと楽しみ……」
おいしいものを食べられると思うとついついニコニコしてしまう。と、向かいに座るツカサが手に持っていた小さ目の手提げ袋を私に差し出す。
「プレゼント」
その手提げ袋には「Jewelry Shinoduka」と金の箔押しがしてある。
となれば、その中身は間違いなくジュエリーなわけで、少々及び腰になってしまうのも仕方がないというもの。
「……またジュエリー?」
「いやだった?」
「ううんっ、いやとかそういうわけではなくてっ――」
ただ、高価なものとわかってしまうだけに受け取りづらいのだ。
「開けてみて」
ずずい、と押し勧められ、私は緊張しながら手提げ袋を覗き込む。
手提げ袋の中にはふたつの箱が入っていた。
「え? ふたつっ!?」
「そう、ふたつ」
ツカサは満足そうに笑う。
そんな顔を見てしまうと、「ひとつでいいのに……」とは口が裂けても言えない。
私は小さな包みから開けることにした。
手のひらに乗る大きさの箱にはペリドットのイヤリングが入っていた。
「わ……かわいい……」
クリスマスにプレゼントされたカボションカットのリングとデザインが同じで、指輪より一回り小さいくらいの大きさ。
「もうひとつも開けてみて」
急かされて細長い箱の白いリボンに手をかけると、そちらには同じデザインのネックレスが入っていた。
「全部指輪と同じデザイン……?」
「そう。指輪ができない際にチェーンに通して持ち歩けるようにはしてあったけど、どうせなら同じデザインのネックレスやイヤリングがあってもいいのかと思って」
「嬉しい……ありがとう!」
「デザインに飽きたら、それらをひとつにしてブレスレットにすることも可能だって聞いた」
そこまで考えてくれていることが本当に嬉しくて、なんとも言えない気持ちになる。
どうしようかな……。
出逢ってからずっと、好きな気持ちが大きくなるばかりだ。どんなに長い時間一緒にいても、その気持ちが薄らぐことがない。
こんなにも好きになれる人に出逢えたことを私は神様に感謝しなくちゃいけないだろう。
そんなことを考えていると、ツカサが席を立ち、ネックレスを首にかけてくれた。そして、イヤリングもつけてくれる。
「似合う?」
「文句なしに似合う。翠も来年は高校を卒業するだろ? 大学生になって私服通学するようになればアクセサリーをつける機会も増えるって姉さんから聞いたから」
おそらくは、普段使いできるようにシンプルなデザイン、大振りすぎないものにしてくれたのだろう。
「でも、出来る限り指輪はしてて」
まるで釘を刺すような言葉に少し笑ってしまった。
「誰のことを牽制しようとしているの? 私に言い寄ってくるような人はいないよ」
「翠は色々わかってない。第一、一番近しいところに秋兄がいるだろ」
「でも秋斗さんは指輪してても寄ってきそう」
「ものすごく納得できてむかつく……」
そんな返答にだっておかしくて笑ってしまう。
「秋斗さん対策なら指輪はあってもなくてもいいんじゃない?」
「翠は本当に自分のことをわかってないよな。三年も連続で姫になったくせに」
「それを言うなら、ツカサだって十四年連続で王子だったのでしょう? それなら私だってツカサに何かつけてて欲しい」
「何かって……?」
「そうだなぁ……指輪がいいけど、男性で指輪って言ったらマリッジリングになっちゃうのかな……?」
「別に、ペアリングって手もあるんじゃないの?」
「いやじゃない?」
「いやなわけないだろ? むしろ、女避けになるなら欲しいくらいだ」
「……本当に?」
「指輪ひとつで女が寄ってこなくなるなら面倒くさいことが減っていいに決まってる」
「っ……じゃ、あとで買いに行こうっ?」
「やけに乗り気……」
「女の子避けになるなら、余計に持っていてもらいたいもの……」
「そのあたりを心配されるような行いはしてきたつもりないんだけど……」
「そーれーでーもっ! 私だってやきもちくらい妬くんですからねっ」
「……へぇ」
ツカサはどこか嬉しそうに笑う。そして、
「でもペアリングか……。それならもうマリッジリングでいいんじゃない?」
「結婚してないのに……?」
「普通のペアリング買うよりも効果ありそうだし……。指につけるのが抵抗あるなら、それこそ結婚するまではチェーンに通しておけばいいわけで……」
「それもそうね……? ね、あとはショップへ行って実物を見て決めない?」
「了解」
その後、私たちはおいしい料理に舌鼓を打った。
途中静さんがやってきて、
「翠葉ちゃん、数日遅れだが誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます! それから、またたくさんのドレスを本当にありがとうございます」
「湊と園田が張り切って選んでいたから、ふたりに感想を伝えてやると喜ぶだろう。料理はどうだい?」
「とってもおいしいです!」
「それはよかった。須藤と料理長も喜ぶだろう。今日は少しおとなっぽい格好をしているね? ネイビーのワンピースはシエルダジュールのものかい?」
「すごいっ! よくおわかりですね?」
「あそこは碧の好きなブランドだからな。それとそのジュエリーはペリドット……?」
「ツカサからのプレゼントなんです」
「よく似合っている。司、いい趣味してるな」
「デザインしてるのは篠塚さんだから、センスがよくて当たり前なんじゃないですか?」
「まったくおまえというやつは……」
静さんは呆れた顔で、
「結婚するときにはマリッジリングをうちで選ぶといい。ジュエリー篠塚のものも数多く揃えているし、他ブランドも相応にあるぞ」
なんてタイムリーな話だろう。
ツカサもそう思ったらしく、すぐに訊き返していた。
「それ、ランチのあとに見せてもらうことできますか?」
「おいおい、結婚は六年後だろう? 少し早すぎないか?」
「早急にペアリングが欲しいんです」
ツカサの言葉に静さんがくつくつと笑った。
「なんだ、女避けに男避けか?」
「そんなようなものです」
「なら、あとで園田に案内させよう」
そう言うと、静さんは愉快そうに笑いながら個室を出て行った。
すごくいやそうな顔をしながらスーツを着たツカサにエスコートされ、ウィステリアホテルの四十階を歩いていた。
今日は私のお誕生日のお祝いデートで、静さんから「ぜひに」とウィステリアホテルでのランチに誘われていたのだ。
「ごめんね? 普段あまり使わないから、こういうときくらいはって静さんに言われてて……」
「ここだと翠がフリーパス持ってるから俺が支払いすることできないんだけど……」
「うーん……そこはもうご馳走になっちゃおう?」
宥めすかして歩いていると、前を歩く澤村さんにクスリと笑われる。
「翠葉お嬢様はなかなか当ホテルをご利用くださらないので、あの手この手でご利用いただくよう皆必死です」
「そんなことを言われても……。私、まだ高校生ですよ? こんな高級ホテルに来ること自体少ないです……」
「ですが、アンダンテのケーキはお好きでしょう? そのほか新作スイーツや限定ランチ、限定ディナーが出るたびにお便りを送らせていただいておりますが、未だ一度もいらしてくださらない。皆悲しみに暮れていますよ」
そこをつかれるとちょっとつらい……。
「本日の料理は料理長と須藤の合作ですので、ぜひご満足いただけるかと思います」
そう言われて個室へ案内されると、室内の調度品にはそぐわないものが用意されていた。
何って、ドレスが掛けられたハンガーラックとスタンドミラーが部屋の脇に置かれているのだ。
「これ、もしかして……」
「静様と湊様、園田の三人で選んだ翠葉お嬢様のドレスです。こちらはマリアージュの翠葉お嬢様専用クローゼットへ保管させていただきますので、本日はデザインをお楽しみいただけたら幸いです。それから、こちらの包みはフォトグラファー班からのプレゼントになります。電子式防湿庫とのことでしたので、ご自宅でのカメラやレンズ管理にお使いください。こちらは私が責任を持って司様のお車へ運ばせていただきます」
そう言うと、澤村さんは一礼をして、ひとつの包みをカートに乗せて、部屋を出て行った。
私は視線をハンガーラックへ戻し、
「またたくさん……」
その分量たるや、尋常じゃない。一着ずつ数えて行くと、やっぱり十着あるわけで……。
「ふーん。フルレングスが二着であとは膝丈やミモレ丈。これなら普段使いもできるんじゃない?」
ツカサは客観的に見てそんな意見を言う。
「でも、ドレスだよっ!? どう見繕っても、ちょっとオシャレしてディナーへ出かけましょう的なドレス! こんなの着る機会そうないよ~……」
「でも、家族で誕生日を祝うときはウィステリアホテルなんだろ?」
「うん。そうだけど……」
「じゃ、碧さんの誕生日、零樹さんの誕生日、翠たちの誕生日で三着。ほか、俺と翠の誕生日を祝うときに一着ずつ。クリスマスディナーで一着。残り四着……。じーさんの誕生パーティーでフルレングス一着。あと何かあるかな……」
「……お付き合い始めた記念日とか?」
「それもありじゃない?」
「あとはピアノの発表会でフルレングスが着られるかなぁ……」
「ほかだと、篠塚さんとこの新作発表会のレセプションパーティーに呼ばれることもあるから、そういう席でも着られるんじゃない?」
そんな提案があるとは思ってもみず、私はまじまじとツカサを見上げてしまった。
「……ツカサはなんでそんなに私にジュエリーを贈りたがるの?」
「似合うから……?」
「似合うからって――」
「好きな女を飾り立てたいと思うのは――……普通じゃないの?」
訊かれて困ってしまう。
「普通かどうかはわからないのだけど……でも、秋斗さんも髪飾りプレゼントしてくれたから、そういうものなのかなぁ……」
「第一、翠は飾り甲斐がある」
スーツ姿のツカサに真顔で言われて、私はうっかり赤面する羽目になり、頬の熱さを感じながら、見事なセッティングがされたテーブルにツカサと向かい合わせに座った。
「須藤さんの料理、久しぶり! ちょっと楽しみ……」
おいしいものを食べられると思うとついついニコニコしてしまう。と、向かいに座るツカサが手に持っていた小さ目の手提げ袋を私に差し出す。
「プレゼント」
その手提げ袋には「Jewelry Shinoduka」と金の箔押しがしてある。
となれば、その中身は間違いなくジュエリーなわけで、少々及び腰になってしまうのも仕方がないというもの。
「……またジュエリー?」
「いやだった?」
「ううんっ、いやとかそういうわけではなくてっ――」
ただ、高価なものとわかってしまうだけに受け取りづらいのだ。
「開けてみて」
ずずい、と押し勧められ、私は緊張しながら手提げ袋を覗き込む。
手提げ袋の中にはふたつの箱が入っていた。
「え? ふたつっ!?」
「そう、ふたつ」
ツカサは満足そうに笑う。
そんな顔を見てしまうと、「ひとつでいいのに……」とは口が裂けても言えない。
私は小さな包みから開けることにした。
手のひらに乗る大きさの箱にはペリドットのイヤリングが入っていた。
「わ……かわいい……」
クリスマスにプレゼントされたカボションカットのリングとデザインが同じで、指輪より一回り小さいくらいの大きさ。
「もうひとつも開けてみて」
急かされて細長い箱の白いリボンに手をかけると、そちらには同じデザインのネックレスが入っていた。
「全部指輪と同じデザイン……?」
「そう。指輪ができない際にチェーンに通して持ち歩けるようにはしてあったけど、どうせなら同じデザインのネックレスやイヤリングがあってもいいのかと思って」
「嬉しい……ありがとう!」
「デザインに飽きたら、それらをひとつにしてブレスレットにすることも可能だって聞いた」
そこまで考えてくれていることが本当に嬉しくて、なんとも言えない気持ちになる。
どうしようかな……。
出逢ってからずっと、好きな気持ちが大きくなるばかりだ。どんなに長い時間一緒にいても、その気持ちが薄らぐことがない。
こんなにも好きになれる人に出逢えたことを私は神様に感謝しなくちゃいけないだろう。
そんなことを考えていると、ツカサが席を立ち、ネックレスを首にかけてくれた。そして、イヤリングもつけてくれる。
「似合う?」
「文句なしに似合う。翠も来年は高校を卒業するだろ? 大学生になって私服通学するようになればアクセサリーをつける機会も増えるって姉さんから聞いたから」
おそらくは、普段使いできるようにシンプルなデザイン、大振りすぎないものにしてくれたのだろう。
「でも、出来る限り指輪はしてて」
まるで釘を刺すような言葉に少し笑ってしまった。
「誰のことを牽制しようとしているの? 私に言い寄ってくるような人はいないよ」
「翠は色々わかってない。第一、一番近しいところに秋兄がいるだろ」
「でも秋斗さんは指輪してても寄ってきそう」
「ものすごく納得できてむかつく……」
そんな返答にだっておかしくて笑ってしまう。
「秋斗さん対策なら指輪はあってもなくてもいいんじゃない?」
「翠は本当に自分のことをわかってないよな。三年も連続で姫になったくせに」
「それを言うなら、ツカサだって十四年連続で王子だったのでしょう? それなら私だってツカサに何かつけてて欲しい」
「何かって……?」
「そうだなぁ……指輪がいいけど、男性で指輪って言ったらマリッジリングになっちゃうのかな……?」
「別に、ペアリングって手もあるんじゃないの?」
「いやじゃない?」
「いやなわけないだろ? むしろ、女避けになるなら欲しいくらいだ」
「……本当に?」
「指輪ひとつで女が寄ってこなくなるなら面倒くさいことが減っていいに決まってる」
「っ……じゃ、あとで買いに行こうっ?」
「やけに乗り気……」
「女の子避けになるなら、余計に持っていてもらいたいもの……」
「そのあたりを心配されるような行いはしてきたつもりないんだけど……」
「そーれーでーもっ! 私だってやきもちくらい妬くんですからねっ」
「……へぇ」
ツカサはどこか嬉しそうに笑う。そして、
「でもペアリングか……。それならもうマリッジリングでいいんじゃない?」
「結婚してないのに……?」
「普通のペアリング買うよりも効果ありそうだし……。指につけるのが抵抗あるなら、それこそ結婚するまではチェーンに通しておけばいいわけで……」
「それもそうね……? ね、あとはショップへ行って実物を見て決めない?」
「了解」
その後、私たちはおいしい料理に舌鼓を打った。
途中静さんがやってきて、
「翠葉ちゃん、数日遅れだが誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます! それから、またたくさんのドレスを本当にありがとうございます」
「湊と園田が張り切って選んでいたから、ふたりに感想を伝えてやると喜ぶだろう。料理はどうだい?」
「とってもおいしいです!」
「それはよかった。須藤と料理長も喜ぶだろう。今日は少しおとなっぽい格好をしているね? ネイビーのワンピースはシエルダジュールのものかい?」
「すごいっ! よくおわかりですね?」
「あそこは碧の好きなブランドだからな。それとそのジュエリーはペリドット……?」
「ツカサからのプレゼントなんです」
「よく似合っている。司、いい趣味してるな」
「デザインしてるのは篠塚さんだから、センスがよくて当たり前なんじゃないですか?」
「まったくおまえというやつは……」
静さんは呆れた顔で、
「結婚するときにはマリッジリングをうちで選ぶといい。ジュエリー篠塚のものも数多く揃えているし、他ブランドも相応にあるぞ」
なんてタイムリーな話だろう。
ツカサもそう思ったらしく、すぐに訊き返していた。
「それ、ランチのあとに見せてもらうことできますか?」
「おいおい、結婚は六年後だろう? 少し早すぎないか?」
「早急にペアリングが欲しいんです」
ツカサの言葉に静さんがくつくつと笑った。
「なんだ、女避けに男避けか?」
「そんなようなものです」
「なら、あとで園田に案内させよう」
そう言うと、静さんは愉快そうに笑いながら個室を出て行った。