光のもとでⅡ+
「思ってることを呑みこまないでほしいんだけど」
「っ……」
「前にも言っただろ? 価値観が違うからといって、翠の価値観を認めないわけじゃないし、否定するわけじゃないって」
その言葉に冷静さを取り戻す。
「ここのアクセサリーはちゃんとした宝飾品、だと思うの。それこそ、大人が身につけても遜色ないというか、高校生がつけるには身に余るというか……」
これで私の思いは伝わるだろうか。
不安に思いながらツカサを見上げると、
「……その価値観はわからなくはない」
「なら――」
「でも――俺は翠が何歳になっても使えるものをプレゼントしたい。翠が一生付き合えるものをプレゼントしたい」
一生、付き合えるもの……?
「少し考えてみてくれないか? 今の俺たちに見合う値段のものを贈ったとして、どれだけの期間、そのアクセサリーが使える?」
どのくらいの期間……?
「安いものは、そのときの流行であったり、ターゲット層のニーズに合うデザインを取り入れていることが多い。つまり、どれだけ大切に扱おうと、翠が年を重ねればやがてしっくりこないものになる。俺はそういうものはプレゼントしたくない」
そう言われて改めて薬指にはまる指輪を注視する。
細いリングにはこれといった装飾はされていない。そのリングにふさわしい大きさのペリドットは爪で留まっているわけではなく、カボションカットのペリドットをリングと同じ素材がシンプルに囲っているだけ。
確かこういうデザインのものを「覆輪留め」といったはず。
中学に上がりたてのころ、城井のおばあちゃんの宝石コレクションを見せてもらったときに教えてもらった。
接着剤やUVレジンを使わずにきちんと覆輪留めされた宝石は、いつかデザインに飽きたとき、ほかのデザインへ変更することができるのだと……。
「あ……」
とてもシンプルなこの指輪なら、年を重ねても似合わなくなることはないだろう。でも、デザインに飽きてしまうことはあるかもしれなくて、ツカサはそのときのことまで考えて選んでくれていたの……?
「ツカサがこのデザインを選んだのって……」
「翠なら何をプレゼントしてもずっと大切に使ってくれるだろう? それでも、デザインに飽きることはあるかもしれない。そのとき、石はそのままにデザインを変更できるようにと思って、この工法を選んだ」
そんな先のことまで考えてプレゼントしてくれていただなんて……。
「ごめん……ありがとう」
「納得した?」
胸がいっぱいになった私は言葉を発することができなくて、コクリと小さく頷く。
「ならよかった」
ポンポンと頭を二回叩かれ、
「じゃ、どんなデザインが好きなのか教えてほしいんだけど」
でも、ショーケースを見てしまうと、また値札が目に入ってしまう。そしたら、やっぱり気にはなってしまうわけで……。
動くに動けずにいると、
「翠、そこに座ってちょっと待ってて」
ツカサは店内のソファに私を座らせると、ひとりショーケースへ向かって歩き出し、店員に声をかけた。すると、奥から篠塚さんが出てきて、女性スタッフと一緒にショーケースを端から回り始めた。
「何、してるんだろう……」
その様子を眺めること十五分。ツカサに手招きされてショップの奥へ向かうと、商談ブースのようなボックス席へと通された。そのテーブルにはツカサが見立てたであろうアクセサリーがいくつも並べられていた。けれども、それらにはついているべきものがついていない。つまり、値札がついていないのだ。
「デザインだけ見られるようにしてもらった」
その気使いが嬉しくて申し訳なくていたたまれなくなる。
「ほら、座って」
言われてソファに座ると、自分の前にジュエリートレイと鏡が用意された。
「翠に似合いそうなものをピックアップしてきたつもりだけど、好きなデザインある?」
ツカサは隣に腰を下ろし、私より真剣にトレイのアクセサリーを吟味し始めた。
「まず俺が確認したいのは、色かな……」
「色……?」
「翠は色が白いから、プラチナでもゴールドでも似合うとは思っているけど、ピンクゴールドよりはイエローゴールドのほうが肌馴染みがいい気がしたんだ」
そう言って、プラチナ、イエローゴールド、ピンクゴールドとすべてのリングを指にはめられる。
「篠塚さん、どう?」
「司様のお見立てで問題ないかと思います。ですがやはり、身につける方の好みもあるでしょうから……」
ふたりの視線がこちらを向き、
「あ……えと……もともとはシルバーのほうが好きだったの。でも、ツカサからいただいたブレスレットも指輪も、とても肌馴染みがよくて、今はシルバーよりもイエローゴールドのほうが好き……」
そう言うと、女性スタッフがすぐにプラチナと思われる品物を下げ始めた。
残されたものを前に固まっていると、
「翠の好きなデザインの傾向を知りたいだけだから、ここから何かを選べって言ってるわけじゃない」
そうは言われても……。
「こっちとこっちなら?」
「こっち」
「これとこれなら?」
「こっちかな……?」
「じゃ、これとこれだと?」
「こっち」
二者択一を何度も繰り返すことでツカサと篠塚さんは私の好みを探っているようだ。そして、
「こちらのデザインがお好きでしたら、こういうのはどうでしょう?」
篠塚さんがタブレットにアクセサリーを表示させてくれる。
「あ、好きです」
「それでしたら、こちらもお好きですか?」
「はい、好きです」
そのあとは宝石の好みを調べるべく、ジュエリートレイにまだアクセサリーとして加工されていない宝石が並べられた。
その中から好きな色味を答えてすべて終了。
本当に何を買うとかそういうことではなく、私の好みを知るためのものだった。
「また何かございましたらお気軽にお立ち寄りください」
そう篠塚さんに声をかけられ、私たちはショップをあとにした。
「っ……」
「前にも言っただろ? 価値観が違うからといって、翠の価値観を認めないわけじゃないし、否定するわけじゃないって」
その言葉に冷静さを取り戻す。
「ここのアクセサリーはちゃんとした宝飾品、だと思うの。それこそ、大人が身につけても遜色ないというか、高校生がつけるには身に余るというか……」
これで私の思いは伝わるだろうか。
不安に思いながらツカサを見上げると、
「……その価値観はわからなくはない」
「なら――」
「でも――俺は翠が何歳になっても使えるものをプレゼントしたい。翠が一生付き合えるものをプレゼントしたい」
一生、付き合えるもの……?
「少し考えてみてくれないか? 今の俺たちに見合う値段のものを贈ったとして、どれだけの期間、そのアクセサリーが使える?」
どのくらいの期間……?
「安いものは、そのときの流行であったり、ターゲット層のニーズに合うデザインを取り入れていることが多い。つまり、どれだけ大切に扱おうと、翠が年を重ねればやがてしっくりこないものになる。俺はそういうものはプレゼントしたくない」
そう言われて改めて薬指にはまる指輪を注視する。
細いリングにはこれといった装飾はされていない。そのリングにふさわしい大きさのペリドットは爪で留まっているわけではなく、カボションカットのペリドットをリングと同じ素材がシンプルに囲っているだけ。
確かこういうデザインのものを「覆輪留め」といったはず。
中学に上がりたてのころ、城井のおばあちゃんの宝石コレクションを見せてもらったときに教えてもらった。
接着剤やUVレジンを使わずにきちんと覆輪留めされた宝石は、いつかデザインに飽きたとき、ほかのデザインへ変更することができるのだと……。
「あ……」
とてもシンプルなこの指輪なら、年を重ねても似合わなくなることはないだろう。でも、デザインに飽きてしまうことはあるかもしれなくて、ツカサはそのときのことまで考えて選んでくれていたの……?
「ツカサがこのデザインを選んだのって……」
「翠なら何をプレゼントしてもずっと大切に使ってくれるだろう? それでも、デザインに飽きることはあるかもしれない。そのとき、石はそのままにデザインを変更できるようにと思って、この工法を選んだ」
そんな先のことまで考えてプレゼントしてくれていただなんて……。
「ごめん……ありがとう」
「納得した?」
胸がいっぱいになった私は言葉を発することができなくて、コクリと小さく頷く。
「ならよかった」
ポンポンと頭を二回叩かれ、
「じゃ、どんなデザインが好きなのか教えてほしいんだけど」
でも、ショーケースを見てしまうと、また値札が目に入ってしまう。そしたら、やっぱり気にはなってしまうわけで……。
動くに動けずにいると、
「翠、そこに座ってちょっと待ってて」
ツカサは店内のソファに私を座らせると、ひとりショーケースへ向かって歩き出し、店員に声をかけた。すると、奥から篠塚さんが出てきて、女性スタッフと一緒にショーケースを端から回り始めた。
「何、してるんだろう……」
その様子を眺めること十五分。ツカサに手招きされてショップの奥へ向かうと、商談ブースのようなボックス席へと通された。そのテーブルにはツカサが見立てたであろうアクセサリーがいくつも並べられていた。けれども、それらにはついているべきものがついていない。つまり、値札がついていないのだ。
「デザインだけ見られるようにしてもらった」
その気使いが嬉しくて申し訳なくていたたまれなくなる。
「ほら、座って」
言われてソファに座ると、自分の前にジュエリートレイと鏡が用意された。
「翠に似合いそうなものをピックアップしてきたつもりだけど、好きなデザインある?」
ツカサは隣に腰を下ろし、私より真剣にトレイのアクセサリーを吟味し始めた。
「まず俺が確認したいのは、色かな……」
「色……?」
「翠は色が白いから、プラチナでもゴールドでも似合うとは思っているけど、ピンクゴールドよりはイエローゴールドのほうが肌馴染みがいい気がしたんだ」
そう言って、プラチナ、イエローゴールド、ピンクゴールドとすべてのリングを指にはめられる。
「篠塚さん、どう?」
「司様のお見立てで問題ないかと思います。ですがやはり、身につける方の好みもあるでしょうから……」
ふたりの視線がこちらを向き、
「あ……えと……もともとはシルバーのほうが好きだったの。でも、ツカサからいただいたブレスレットも指輪も、とても肌馴染みがよくて、今はシルバーよりもイエローゴールドのほうが好き……」
そう言うと、女性スタッフがすぐにプラチナと思われる品物を下げ始めた。
残されたものを前に固まっていると、
「翠の好きなデザインの傾向を知りたいだけだから、ここから何かを選べって言ってるわけじゃない」
そうは言われても……。
「こっちとこっちなら?」
「こっち」
「これとこれなら?」
「こっちかな……?」
「じゃ、これとこれだと?」
「こっち」
二者択一を何度も繰り返すことでツカサと篠塚さんは私の好みを探っているようだ。そして、
「こちらのデザインがお好きでしたら、こういうのはどうでしょう?」
篠塚さんがタブレットにアクセサリーを表示させてくれる。
「あ、好きです」
「それでしたら、こちらもお好きですか?」
「はい、好きです」
そのあとは宝石の好みを調べるべく、ジュエリートレイにまだアクセサリーとして加工されていない宝石が並べられた。
その中から好きな色味を答えてすべて終了。
本当に何を買うとかそういうことではなく、私の好みを知るためのものだった。
「また何かございましたらお気軽にお立ち寄りください」
そう篠塚さんに声をかけられ、私たちはショップをあとにした。