DEAR MY LIAR
ずっとしまい込んでいたリボン型のキーホルダーは、安いプラスチック製にも関わらず、あの日と同じようにキラキラ輝いていた。
それを初めてバッグのストラップに引っ掛けて、あの日逃げ出すように走った道を、ゆっくり歩いていく。
まだ積もらないまでも雪がちらつくようになり、踏みしめるアスファルトは黒く濡れている。
お昼までは少し時間のある日曜日の午前中。
おじちゃんが大好きだった、カスタードとホイップクリームの両方が入ったシュークリームをふたつ持って、チャイムを鳴らした。
「……お願い。帰って」
この前とは違って青ざめた顔で、おじちゃんは頭を下げた。
「これが最後だから。場合によっては、もう二度と来ない」
おじちゃんはしぶしぶ部屋の中に引き返して行き、わたしは堂々とそのあとを追う。
「足、どう?」
松葉杖は使っていないけれど、少し左足を引きずっている。
「うん。もう大丈夫」
そう言ってキッチンに向かうおじちゃんをイスに座らせて、勝手知ったるわたしはコーヒーとシュークリームをテーブルに並べた。
「ありがとう」
そう言ったあとしばらくわたしの様子をうかがっていたが、話す気配がないとわかるとシュークリームに手を伸ばした。
ひと口かじって、キョロキョロと辺りを見回すので、ウェットティッシュを一枚差し出す。
「あ、ごめん。ありがとう」
大きくて食べにくいシュークリームも、おじちゃんにかかるとあっという間になくなった。
わたしのコーヒーはまだ半分しか減っていない。
丹念に指先を拭うおじちゃんに、わたしは一枚のレシートを差し出す。
「シュークリーム1個220円。わたしはこの金額で、おじちゃんを買うことにした」
ウェットティッシュを指先に当てたまま、おじちゃんはレシートを覗き込んで、顔を歪めた。
「……やられた」
よろけながら立ち上がり、テレビ台の上からお財布を取ってきたおじちゃんを手で制する。
「そのお金じゃダメ」
「なんで? これは俺が働いて得たお金だよ?」
「支払いはおじちゃんの生命保険のお金でしてもらうから」
「じゃあ、すぐに解約して……」
「そういう意味じゃないの、わかってるでしょ?」