生きろ。死にたくなかった君の号哭を、俺達は死んでも忘れない。
「……どこに行きたいの?」
下を向いていた俺の顔を覗き込んで、先生は言った。
「えっ?」
「……送っててあげる。言ったでしょう?君のためなら叱られてもいいって」
顔を上げた俺を見て、先生はそう言って、意地悪そうに微笑んだ。
「……主治医なのに、患者を外に出すのはどうなんですか」
「主治医失格かもね!!でも、私は主治医である前に、一人の人間だから。人として、君の想いを優先したいと思った。それじゃダメ?」
仁王立ちをして、先生は大層自信ありげにそう言いきると、首を傾げた。
「……30分です。30分で、俺が前の病院に戻れるように委員長先生に話を通してきて下さい。別荘に忘れ物を取りに行ったら、俺は前の病院に戻りますから」
「……しょうがないなぁ。わかったよ赤羽くん、ありがとう」
ほんの少し頬をふくらませてそう言った後、先生は足早に病院の中に戻っていった。
――やっぱり姉に似ている。
もはや目障りなくらい、お節介な所も。
……早く行かないと。
俺は携帯の待ち受け画面に表示されていた時計を、逸る気持ちで見つめていた。