生きろ。死にたくなかった君の号哭を、俺達は死んでも忘れない。
―― ボスっ。
泣き止んだ頃、奈々絵が俺の肩に体を預けてきた。
「……スー、スー」
涙を拭ってからその様子を伺うと、奈々絵は寝息を立てて、ぐっすりと眠っていた。 さっきは俺のことあんなに心配してたのに、もう寝てんのかよ。
でも、それは病人だからしょうがないか……。そう思い、俺は奈々絵の頭をそっと撫でた。
俺達が電車ではなく、金持ちの日比谷家の車に乗せてもらって海に向かっているのは、奈々絵の喘息を思ってだ。
奈々絵は喘息のせいか酔いやすくて、電車だろうとバスだろうと、あるいは車でも、寝てなければ数分もしないで吐く。
電車だと、乗り換えの時にいちいち奈々絵を起こさないといけない。そんなことをしたら、喘息の他に家族が死んだショックで不眠症も患っている奈々絵は、乗り換えた後の電車でろくに寝付けずに、酔って吐いてしまうのだろう。
本当に、なんで奈々絵はこんな病弱のくせに、俺なんかのことを心配してるんだ。
……親に虐待されていたような子供は、心配される価値もないのに。