焦れ恋ロマンス~エリートな彼の一途な独占欲
「滝本、ここ」

「え、なに?」

なぜか自分の口元を指差す織田くん。意味がわからず首を傾げると、長い腕が伸びてきた。

「ここについてる」

彼の親指は私の下唇を拭う。

突然のことに瞬きもできず織田くんを眺めていると、そのまま彼は自分の親指をぺろりと舐めた。

「お、織田くん!?」

やっと声が出て抗議する。

「口についていたなら言ってくれたらいいじゃない! 紙ナプキンで拭いたのに」

もうついていないとわかっていても、つい手にとり口元を拭いてしまう。

「いや、俺が取ったほうが早いと思って」

は、早いって……!

「それでもやっぱり言ってほしかったです」

動揺してまた敬語になる。すると織田くんは必死に口を結んで笑いを堪えている。

「わかった、今度はちゃんと言うよ」

ほら、こういうところ。すごく余裕があるように見えちゃう。きっとドキドキしているのは、同じじゃないでしょ? 動揺しているのも私だけだよね。

『友達から』って言われたのに、どうしても意識してしまう。さっきみたいなことをされると余計に。……それに。
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