僕に君の愛のカケラをください
葉月は、子供の頃から、獣医である父の職場に行って、牛や羊、時には捨て犬の出産に立ち会っていた。

父は大型の動物、いわゆる家畜の専門の獣医だ。

葉月の父は、農業大学校で大学生が育てる家畜の診察と治療を担当している。

本来、畜産の技術を学ぶべき農業大学校。

しかし、動物がいる大学校なら捨てられた動物でも面倒をみてくれるだろうと、ペットを捨てる不届き者がいるのも事実だ。

夏休みなどの長期の休みには、葉月も大学校に泊まり込んで父の手伝いをしていた。

だから、生まれたての子犬の40日間がどれだけ大切かも知っている。

「早速ですけど必要なものを準備させていただきます」

一目散にペットコーナーへと突き進んだ葉月は、カートの中に必要なものをドンドン詰め込んでいく。

その様子に呆然としている蒼真を尻目に、葉月はためらいがない。

ゲージにペットシーツ、子犬用のミルク、哺乳瓶、etc.

「これ、今から蒼真さんちに運び込んでもいいですか?」

子犬のために情熱を燃やす葉月は、いつになく強引だった。男の家に連れ込まれることへの危機感はないのか、と蒼真は逆に心配になった。

「あ,,,ああ」

買い物を済ませた二人は、荷物をタクシーに積み込むと、蒼真のマンションへと運び込むことになった。
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