僕に君の愛のカケラをください
同居生活
終業後、ジロウにミルクをやり、排泄介助を済ませると、葉月はスタッフに頭を下げそそくさと会社をあとにして行った。

靖晃以外のスタッフは、葉月が自分のアパートに子犬を連れ帰ると思っているが、今日からしばらく、葉月とジロウの家は蒼真のマンションだ。

一人、また一人とスタッフが帰宅し、会社に残ったのは、靖晃と蒼真だけとなった。

「それにしても思いきったな。蒼真」

靖晃が呆れたように蒼真の肩を叩いた。

「自分でもビックリしてるよ」

社長室はスタッフルームから隔離されており、応接室と一続きになっている。

応接用のソファに向かい合わせに座りながら二人はコーヒーを飲む。

「葉月ちゃんを採用してから、蒼真がやたらと彼女を気にしているのはわかってた。でも、それは新入社員に対する教育的な関心ってだけで、深い意味はないと思っていたが,,,」

靖晃はニヤニヤして

「お前って人を好きになったら、意外に頭よりも体が先に動くタイプだったんだな。可愛いやつめ」

と、蒼真の頭をグリグリと撫でてきた。

「、、、!やめろよ。俺だって信じられないんだから」

高校、大学と一緒に過ごしてきた靖晃は、蒼真の暗い過去を知っている唯一の親友だ。

「葉月ちゃんは男心には疎いけど、ものすごく心が優しい子だ。きっと蒼真のことも受け入れてくれるよ」

テーブルの上のコーヒーカップを見つめる蒼真の顔が悲しげに歪む。

「一度手にしたものを手放すときの衝撃に耐えられるか、今から自信がない」

蒼真の心に根ざす不安の影。

葉月とジロウがその影を払拭してほしいと、靖晃は心から願っていた。

そのためならどんな協力だって惜しまない。

そう思えるほど、蒼真は純粋な男だった。
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