僕に君の愛のカケラをください
携帯のアラームが聞こえる。

夕べもいつものように昔の夢にうなされてしまったが、途中から優しい声が聞こえてきて、暖かい何かに包まれたから、いつもよりも熟睡できた気がする,,,。

段々と覚醒してきた蒼真は、自分の腕の中に感じる柔らかい何かに違和感を感じた。

ここ数年彼女はいないし、何しろここは蒼真のベッドだ。女性を入れるはずがない。

重い瞼をゆっくり開けると、目の前に部屋着越しの柔らかな女性の胸があった。

慌てて顔を離すと、目の前に綺麗な葉月の寝顔が見える。あまりの天使ぶりに息をのんだ。

気づけば、密着する体。

葉月の細い腰に巻き付けた自分の両腕。

「は、葉月、、、?」

夢ではなかったのだろうか?

ベッド脇のテーブルには、いつの間にかジロウのゲージも置かれていて、お腹が空いたのか、中でジロウがゴソゴソと動いている気配がする。

「う、う,,,ん。あ、蒼真さん、おはようございます。起こしちゃいましたね」

抱き合って眠っていたことに焦る蒼真とは対照的に、葉月は余裕で蒼真の頭を撫でてきた。

「蒼真さんは寝てて下さいね。まだ朝の五時ですから」

蒼真から体を離し、台所に向かった葉月は振り向きもせずに部屋を出ていった。

数分後、ミルクを作って戻ってきたかと思うと、ジロウに授乳し排泄をさせ、空になった哺乳瓶を持って台所に消えた。

手を洗って戻ってきたかと思うと、その後もためらくことなく蒼真の布団に潜り込んだ。

「まだ眠いです,,,。おやすみなさい」

そう言って、ぎゅっと蒼真の体に抱きついてきた葉月は、数分もしないうちに寝息を立て始めた。

一連の流れを唖然として見ていた蒼真も、あまりに現実離れした出来事に色々と考えているのがバカらしくなってきた。

せっかく眠気が続いているのだ。

考えるのは次に起きてからにしよう。

蒼真も葉月をゆるく抱き締めると、再び深い眠りに落ちていった。

その背景にあるのは、蒼真が生まれて初めて感じた安心感だった。
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