僕に君の愛のカケラをください
次に蒼真が目を覚ましたときには、葉月もジロウも部屋にいなかった。

さっきまで感じていた暖かい温もりが消えている。

不幸体質の染み付いた蒼真には、こちらの方が現実的だ。

やはり葉月と抱き合って眠っていたのは夢だったんだろう。

蒼真は、頭を掻きながらムクッと起き上がり普段着に着替えて部屋を出た。

「おはようございます。良く眠れましたか?」

葉月はリビングのソファに腰かけており、背もたれ越しに振り返って言った。

時刻は9時。こんなに寝たのは子供の頃以来だ。

蒼真は驚いて時計を見つめ続けていた。

「、、、葉月、その、今朝、、、。」

一緒に眠っていたのが本当なのか、確かめたくて蒼真はつい、そんな言葉を口にしていた。

「勝手にベッドに潜り込んでごめんなさい。蒼真さんがうなされてたみたいだから隣で様子見てたんですけど、私も眠くってつい、、、」

寝ちゃいました!と葉月は舌を出しながらおどけていった。

葉月の腕にはジロウが丸くなって眠っている。

お腹一杯になって眠っているのだろう。

暖かくて柔らかい葉月の体の感触が思い浮かぶ。

"そこは俺の定位置だ"

蒼真は、柄にもなくまだ赤ん坊の子犬に嫉妬していた。、、、それに、決して蒼真の定位置ではない。

蒼真は、葉月の隣に座ると

「貸して」

とジロウを自分の両手の掌にのせた。

「へえ、暖かいな。それに軽い」

「これからどんどん大きくなりますよ。1日に体重の15%から20%増えてればばっちりです。今日はちゃんと増えてました」

葉月は嬉しそうに蒼真の掌にのったジロウの頭を撫でてきた。

蒼真と葉月の体が何気に密着する形になる。

蒼真がドキドキしていると、そのうちに葉月が何も話さなくなった。

何か気に触ることを言っただろうかと、恐る恐る隣を見ると、蒼真の肩に頭をもたげて葉月が眠っていた。

二時間おきに起きているのだから疲れているに違いない。

蒼真は両手にジロウ、右半身に葉月を感じながら、テレビのテロップが流れる画面をぼんやりと見ていた。

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