僕に君の愛のカケラをください
高山家から蒼真のマンションまではおよそ10kmほど離れている。

葉月は派遣会社に勤めるようになってから、通勤の苦労を軽減させるために独り暮らしを始めた。

最初に勤めた会社では、システムエンジニアとして採用されたため、派遣とはいえ給料が良かった。

比較的セキュリティのよいマンションに住んでいるのもそうした背景がある。

「葉月、ジロウは順調そうだな。結構体重も増えているし、四時間毎の授乳でも問題ないだろう。それと生後1ヶ月になったら検診に行くんだぞ。2ヶ月になったら予防接種も必要だな,,,」

料理の手をやすめた葉月は、父親のいるジロウのゲージの側に近づき、熱心にメモを取り始めた。

その横で、蒼真もカレンダーに予定を書き込んでいく。

「いつまでここにお世話になるつもりか知らないが、命を預かったんだ。葉月がしっかりと面倒をみるんだぞ」

「ジロウが歩き出したら、躾ができるまではおしっこしたりして床を汚してしまうかもしれないもんね。引っ越し先とか先のこともちゃんと考えないと」

と、葉月も頭を抱えた。

"ずっとそばにいてくれるんじゃないのか?"

そんな蒼真の思いを見透かしたように

「前途多難だな、頑張れよ」

と、利信が苦笑した。

「頑張るよ」

自分に言われたと勘違いした葉月が項垂れる。

利信と蒼真は顔を見合わせて笑った。



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