僕に君の愛のカケラをください
そんな葉月が初めて男性にときめいたのは、K&Sに就職してからだ。

就職が決まり、出社した初日、9人のスタッフを前に葉月は挨拶をした。

社長の靖晃と、今回の就職の話を持ち込んでくれたハローワークの中西さんの息子である人事の中西克也27才♂とは面識があるが、他の7名のスタッフとは初対面だった。

7名のスタッフ構成は、男性が4名に女性が3名。皆、K&S設立当初からのメンバーだという。

副社長である蒼真は、その中でも断トツに目立っていた。モデルのようなスタイルに、今流行りの塩顔イケメン。

葉月は面食いではないが、それでもカッコいいなと思うほどに、蒼真はイケメンだった。

「副社長の坂上蒼真です。スタッフの職務管理全般を担当している。わからないことや困ったことは俺に聞くように」

"塩顔のクセに素っ気ないな"

偏見かも知れないが、葉月は蒼真を"軽そうな男"と勝手に認定していたため、その素っ気なさは少し意外だった。

全体挨拶を終えて案内されたデスクに着くと、全体を見渡せる位置にある蒼真のデスクに呼ばれた。

当然のことながら、自分のデスクは末席にあるのだろうと思っていたが、意外にも蒼真のデスクの隣だった。

K&Sはスタッフ同士を役職名で呼んだり、経験年数だけで上下関係を判断するのを禁じている。

"社員は皆並列"

が、社長のポリシーらしく、葉月は初日からとても働きやすい職場だと感じていた。

「葉月、、、でいいか?」

「えっ?」

突然に呼び捨てされて驚く葉月に

「いや、高山は二人いるから、名前の方が間違わないかと思って」

そうだ、この職場には高山という名字のスタッフがもう一名いた。

高山誠45歳♂。ベテランのプログラマーで2人の子供がいる既婚者だ。

「構いません」

蒼真の目をしっかり見つめて話す葉月に、蒼真が慌てて目を逸らす。

頬がほんのり赤いのは気のせいだろうか?

「俺のことは、、、蒼真と呼んでくれていい」

「わかりました。蒼真さん」

試しに満面の笑顔で返してみる。やはり蒼真の顔は真っ赤だ。

"萌えるわ、この塩顔イケメンの照れ顔"

その時の葉月は、単なる興味本位ではあったが、蒼真のことをもっと知りたいなと思ったのは事実だった。
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