僕に君の愛のカケラをください
蒼真は仕事ができる男だった。

御曹司の靖晃は、資本金も持っている上に天才プログラマーといわれる生まれつきのエリートだが、蒼真は確実にノルマをこなして評価されてきた堅実派のエリートらしい。

会社の設立当初からスタッフにも何かしらの特技を持つ精鋭を採用しており、そうした個別の能力を重ね合わせて、K&Sはここまで発展してきたのだと、面接の時に靖晃は語っていた。

派遣で三社を渡り歩いてきた葉月は、入社してしばらくはK&Sの社内の様子を観察しながら仕事をしていた。

そこで気づいたこと、それは圧倒的に蒼真の仕事量が多いということだ。

蒼真は極力スタッフの負担を減らそうとして仕事をふらずに抱え込む。

周りのスタッフはさりげなく周囲に仕事を回しているのに、蒼真のデスクの書類は同じ高さから一向に減ることがないのだ。

仕事が遅いわけでも、能力がないわけでもなく、毎日遅くまで完璧に仕事をしているのにだ。

「葉月ちゃん、何か手伝うことある?」

大亮や中西、高山は葉月に声をかけてくれるが、蒼真にはかけない。

「いえ、私はもう終わりました」

「そう、じゃあ時間になったら気を付けて帰ってね」

アフターファイブをエンジョイしている三人は基本的に時間内に仕事を終わらせて帰る。

葉月は3人が帰宅するのを確認すると、蒼真のデスクに近づいた。

「蒼真さん」

「葉月?どうした」

パソコンから目を離した蒼真が不思議そうに葉月を見つめた。

「半分もらいます」

葉月は、蒼真のデスクに積み上げられた書類の束を半分自分のデスクに移動させた。

「今日はフレックスタイムを取って、11時から出勤してるので後2時間仕事をしなければなりません。」

葉月は蒼真の仕事を手伝うために、自分の仕事は18時までに終わらせてしまっていたのだ。

「しかし、、、」

「この書類の仕事内容はいずれも蒼真さんでなければならない仕事ではありませんよね?これなら私でも2時間で終わらせることができますから」

葉月はこれまでの会社でも、自分の仕事を終わらせた後は、どこに人員が足りていないかをアセスメントしながらスタッフをアシストしてきたのだ。

「上に立つ人は、うまくスタッフの働く意欲を刺激して仕事を回さないと、スタッフのモチベーションが下がってしまいますよ?」

そう言っておどけた葉月に、蒼真は微笑んで

「ありがとう」

と言った。

初めて見た蒼真の笑顔は戸惑いを含んでおり、葉月の萌えスイッチを押すのに十分な威力があった。


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