僕に君の愛のカケラをください
大亮の荒療治?のお陰なのか、葉月の心と体の両方を手に入れることができた。

金曜日の夜から通算4日目。

好きな女性に手を出さずに、ただ抱き合って眠るだけで耐えた自分を褒めてやりたくなるほど、葉月と身も心も1つになる経験は素晴らしかった。

求めても与えられることのなかったすべてを、あっさりと葉月は差し出してくれる。

葉月が入社以来、葉月の与える優しさが"自分に対してだけではない"と戒める自分がいる一方で、子犬を利用した同居を口にするほど切羽詰まった思いに変わっていたのも事実だ。

"葉月が好きだ"

その思いを認めてしまったら、もう塞き止めることは出来なくなってしまうとわかっていた。

だから、近づきすぎてはいけないと予防線を張っていたのに、葉月はあっさりとそれを打ち破って、蒼真の懐に入ってきた。

仕事は好きだ。打ち込めば打ち込むほど成果として現れる。

アフターファイブを楽しむ他の男性スタッフのように、自分を待っている存在も娯楽もない。

そうやって仕事を抱え込む蒼真を、じっと観察して、さりげなく手を差し伸べてきた葉月。

そんな葉月に堕ちるのは一瞬だった。

どうやって気を引けばいいか分からず、出先でもらったお菓子や出張先の土産を渡したりした。

一緒に取引先に行った際には、ランチを奢ったりして。

打算のない葉月には。そんな小手先の意思表示では通用しない。

『私には気を遣わないで下さい』

そう言って笑う葉月に何と言って返すのが正解かがわからない。

自分と似た境遇のジロウが葉月に拾われたのは幸運だった。そのおこぼれを蒼真にももたらしてくれたのだから。

葉月が、お兄さんキャラの大亮ではなく、拗らせた弟キャラの自分をなぜ選んだのか、蒼真にはわからない。

でも、甘えさせたい、と言った葉月にもう遠慮はしない。

「葉月、鬱陶しくても俺を見捨てないでくれよ」

蒼真は疲れ果てて眠る葉月の唇にそっとキスをすると、ゆっくり瞼を閉じた。

今までで一番幸せな時間だった。

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