僕に君の愛のカケラをください
母の人生
翌日の午後、ジロウを靖晃と大亮にあずけることにして、蒼真と葉月は年休を取った。

離乳食を食べるようになったジロウは、会社のスタッフにも慣れ始めていた。

葉月の運転する車で向かった先は、K&Sから10km程離れた片田舎にある総合病院。

靖晃から市役所の福祉課担当者、そこから病院スタッフに連絡が行き、これから蒼真の母の担当医に面会する運びとなっている。

病院につくと、助手席で動けないでいる蒼真の手を、葉月がそっと包み込んだ。

「行こうか。大丈夫。蒼真には私がいるよ」

「,,,ん」

夕べ止めどなく涙を流してから、蒼真は一言も言葉を発していない。だからといって、葉月も無理に話をさせようとはしなかった。

蒼真は、葉月に腕を引かれて病院内に入った。

築年数の経った病院は古いが、それなりに綺麗に修繕されていた。

靖晃に聞いていた病棟のナースステーションにたどり着くと、葉月が受付のクラークに声をかけた。

「坂上鈴さんの担当の先生をお願いしたいのですが」

「ああ、息子さんとその彼女さんですね。伺っております」

40代と思われるクラークは、お辞儀をすると、内線で担当医を呼び出してくれた。

「こちらでお待ちください」

案内されたのは、5人程の人数が入れる面談室。

俯く蒼真と、寄り添う葉月。

蒼真の手は、カタカタと震え始めていた。

< 83 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop