僕に君の愛のカケラをください
「こんにちは」

眼鏡をかけた30代後半と思われる、優しい微笑みを称えた医師が面談室のドアを開けて入ってきた。

「僕は精神科の医師をしています。八代光流といいます。鈴さんの担当医です」

八代は蒼真と葉月に名刺を差し出し挨拶をすると、向かいの席に腰かけた。

「こちらは坂上蒼真さんです。私は蒼真さんと一緒に暮らしている高山葉月といいます」

今だ言葉を紡げない蒼真に代わって、葉月が挨拶をした。

「お時間を取っていただきありがとうございました。今日、お二人をお呼び出ししたのは、何も無理やり鈴さんに会わせたいと思ったからではありません。彼女が亡くなる前にどうしても解いておきたかったわだかまりというのか,,,聞いていただきたいお話があって」

微笑みを絶やさない八代は、いかにも医者という威圧感はなく、保父さんのようなほんわかした雰囲気を醸し出していた。

「まずは、鈴さんのお話をしましょう」



蒼真の母、鈴は数日前に黄疸、意識障害、栄養失調を主訴にこの病院に救急搬送された。

「鈴さんはもう10年近く、同じような状態を繰り返してきました。肝臓と膵臓の方は、内科の主治医が担当しているんですけど、鈴さんは、息子さん,,,蒼真さん?の親権放棄をしているから、彼らが君に何かを依頼してくることはないから安心してください」

蒼真はゆっくりと頷いた。

「僕は鈴さんのアルコール依存症、主に、肝硬変と膵炎の原因となっている心の病の方を担当してきました」

穏やかな表情の八代は、じっと蒼真を観察しながらゆっくりと言葉を繋げた。

「もう、5年になります」

八代は懐かしそうに窓の外を眺めて言った。

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