僕に君の愛のカケラをください
「僕達、精神科の医師は、患者さんの過去の体験を紐解きながら、今の症状や態度と照らし合わせて治療をしていきます」

もともとアルコール依存症気味だった鈴は、5年前から急にお酒の量が増えて、この病院に救急搬送される頻度も増えていったという。

「蒼真さんのお祖父さんが亡くなられてから、日毎にお酒の量が増えてしまったようです」

蒼真は驚いて顔を上げた。

祖父の名前は坂上孝之助という。

5年前、85歳で亡くなった。心筋梗塞だった。

親戚も友人もほとんどいないため、葬儀は行わなかった。

祖父の財産は、持ち家と離れ、そしてその建物の建つ土地だけ。蒼真の親権は孝之助にあったため、財産はそのまま蒼真が相続することになった。

人付き合いを好まない祖父は、昔から雇っていたお手伝いさん以外とは、必要最低限しか話さない人だった。

蒼真ともほとんど話したことはない。学校の用事もお手伝いさんを介してお願いすることがほとんどだった。

そんな祖父が、娘である鈴と連絡を取り合っているとは知らなかった。

「鈴さんは、小さい頃、実のお母さんから言葉による暴力を受けていたんですよ」

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