僕に君の愛のカケラをください
鈴の母親、すなわち蒼真の祖母・康子は、祖父・孝之助とお見合いで結婚した。

寡黙な孝之助と折り合いが合わず、マタニティーブルーから産後鬱になった祖母は、生まれてきた鈴に言葉の暴力を与え続けた。

『あんな男の子供だから鈴は私のいうことをきかないのね』

『あの人にそっくりなあなたの顔が憎たらしい』

そう蔑まれて育ってきた鈴の心は急速に縮こまっていった。

そんな康子が、42歳の若さで胃癌で亡くなるまで、孝之助は、鈴が母親から心理的な虐待を受けていたことに気づかなかった。

仕事にかまけて家庭を顧みなかった罰が、その後の孝之助の人生に待っていた。

言葉をほとんど話さなくなった鈴は、高校進学もせず実家を出てしまう。

そして、18歳で結婚し蒼真を出産した。

「これが、君のお父さんだよ」

八代から手渡されたのは古びた一枚の写真。

蒼真に良く似た背の高い男性が赤ん坊を抱き、その隣で、はにかみながら佇む女性。

その人は紛れもなく、6歳の蒼真が記憶している母親の姿だった。

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