僕に君の愛のカケラをください
「居酒屋やバーに住み込みで働いていた鈴さんは、蒼真くんの父、蒼介さんと出会った。二つ年上でとても優しくて初めて心を開くことが出来た、と鈴さんは言ってましたよ」

八代は写真を見つめて言葉を続ける。

「でも、蒼介さんは仕事中に建築現場の足場が崩れて転落し、23歳の若さで亡くなってしまったんだ」

蒼真は父がどんな人か、生きているのか死んでしまったのかすら知らずに過ごしてきた。

この写真の人物が自分の父親だと言われても全く実感が湧かない。

確かに自分には似ている気はする。

やはり、自分は薄情なのだろうかと、蒼真は他人事のようにぼんやり考えていた。

「君が3歳になるまでは3人で一緒に暮らしていたそうだよ。蒼介さんが亡くなってからの鈴さんは心の依り処を失って、酒に溺れるようになった」

蒼真を育てるために昼も夜も働いていた鈴は、寂しさを紛らわすためにアルコールに依存するようになった。

段々とお酒に費やすお金が増えていくと、子育てにまわす資金がなくなる。

蒼真が赤ん坊のころは、主に蒼介が蒼真の面倒をみてくれていたが、一人になった鈴は、どうやって蒼真をあやせばいいか、どんな対応をすればいいかわからない。

お酒に逃げ、蒼真から目を背けているうちに、自然と家から足が遠退いた、と鈴は語ったという。

「"きっと口を開けば、自分も母親(康子)のように蒼真を罵ってしまう。痩せ細って空腹な筈なのに、無垢な笑顔で自分を待っている蒼真を見ていると蒼介を思い出して苦しくなる"
そうやって、徐々に追い詰められていった鈴さんは、蒼真さんが6歳の時に、児童福祉課の職員が迎えに来てくれたから自分はそれ以上の虐待をせずに済んだ、と言ってましたよ」

だからといって、鈴のしてきた行為が正当化されるわけではない、と八代は語った。

「大なり小なり虐待は連鎖することが多い。君がどんな風に成長しているのか、僕も気がかりだったけど、心配は無用だったね」

そうやってにっこり笑う八代に、葉月は大きく頷いた。

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