ONE〜想いは一つ〜
「夏帆!」

部屋から出ると、由香里が立っていた。

「辞めるの?」

「うん…ごめんね。父の跡継がなきゃ…」

「そっか…、お父様は大丈夫だったの?」

由香里に、父が無事だった事、だけどあまり無理もさせられない事を話した。

「じゃ、佳織に戻れるのね?よかったわ、今まで無理させて悪かったわ」

周りには聞こえない声で、由香里は私に話しかけた。

それに頷き、病院を後にした。


「おい、南條」

病院から出た所で、私を呼び止める誰かの声が聞こえてきた。
声の持ち主が誰なのか、振り返らなくても分かった。

「中元先生…何か?」

「いや、辞めるのか?」

聞いてたんだ…
でも、もうこれで先生の横暴に付き合わなくて済むんだと思ったら、心は軽かった。

「はい、短い間でしたけど、お世話になりました」

私の心は晴れやかだった。
いつもなりたいと思っていた夏帆に、なったのに、いつバレるかビクビクしていたせいもあり、もう演じなくていいと思えば思うほどに。

「結婚するのか…」

「え?」

「あ、いや。悪い…また明日な」

中元先生は、バツが悪そうに病院へと戻って行った。

もしかして聞かれてた?結婚して跡を継ぐって話…

やっと落ち着ける、そう思ったけれど、私の中で何かがもやもやとしていた。
< 57 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop