恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「仕事関係のメールと交じると、業務に支障をきたす」

 だからか。メールは、しづらい。

 遠回しにしてくるなと言われたんだよね。私も特にメールする用事もないし。

「大恩、終わったよ。おとなしいな、本当にいい子だ」
「大恩、いい子ね」

 保定をしていた腕を下ろして、大恩の体中を撫でたら、百点満点の笑顔で私たちの顔を見てくる。なんて可愛い笑顔なの。

「ありがとう、保定は終わりだ」

 抱き抱える院長に、院長大好きハートみたいに、すりすりする大恩が可愛くて腰から落ちちゃいそう。

 院長は優しくなだめながらケージに連れて行った。

 こんな姿をノインが見たら、猛烈に焼きもちを妬いちゃいそう。

 さてと、お世話の続きを始めよう。

「下にいるから、なにかあったら呼んでくれ」
「大恩のお迎えは?」
「今日だと思う」
「ごはんをあげておきますね」
「ありがとう」

 足早に入院室をあとにした院長を見送ると、すぐにルカのケージに駆け寄った。

「ルカ、調子はどう? ごはん食べられるかな。少し食べてみる?」

 撫でると喉を鳴らして目を細める。話を聞いているのね。
 
 ここのところ、横になっている時間が多くなってきたから、床ずれが心配で二、三時間に一度ほどで体位を変えている。

 さっき変えたから、もう少しこっち向きのほうが楽かな。

 シリンジで缶詰めを与えたら舐めた。少しだったけれど舐めてくれた。

 ルカ、あなたは大丈夫よ。また、あとでね。

 私を餌をくれる人と認識している患畜が、あっちもこっちも餌をくれくれ鳴いている。

「はいはい、待って、すぐあげるから」

 人間の赤ちゃんと同じで、声を出して訴えないともらえないもんね。

 食べたいって鳴ける元気も食欲もあるんだから、それはそれでいい。
 
 次々にケージに食器を入れていく。

 あとは食べ終わった子の食器を下げて、洗って終わり。

 PHSが鳴った。急患?

 香さんからで、二階が済んだら待機室に下りて来てって。

 急患じゃないことに安心して、大きく息を吐いた。

 急ぎじゃないって、なんだろう。

 すぐに食器を洗い、ルカにひと声かけて待機室へ向かった。

 待機室に入った瞬間、香さんが可愛いブーケとケーキをくれた。

「お誕生日おめでとう。遅くなってごめんね」
 なになに? 事態が把握できなくて戸惑う。

「ごめんね、履歴書を見たはずなのに。よかった。嬉しいって、顔に書いてある。いい笑顔ありがとう」

 両手を胸に当てる香さんからは、安心した様子が見えた。

「あなたからもお祝いを言いなさいよ、素っ気ないわね」
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