恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
今にも泣き出しそうな瞳で、息を凝らすように、じっと見つめている。
「なぜ、ひとりでケージに入った。危険なことの判断ぐらいできるだろう」
「院長が私を庇って、怪我をしたから申し訳なくて」
「庇うのは当たり前だ、甘えろよ」
ため息をついて、首を左右に振っている。
「庇うってなんですか」
問いかけたのに、そんな言葉は知っても無意味だと言うように無視された。
「ヴァンスが、縄張りを脅かされそうになったときの不安や恐怖はわかっているだろう。神経過敏になり攻撃的になった光景を忘れたのか」
揺れる瞳が、左右の目を交互に見つめて訴えてくる。
「俺に心配させるな!」
初めて強い語気で詰め寄ってきた院長の迫力が怖くなり、肩がぴくりと上がる。
私の両肩に置かれた院長の両手が、心と体を大きく揺さぶり、伝わる想いと腕の力強さも怖くて、固く目を閉じた。
と、両肩が軽くなり、スクラブの袖から表れる逞しい二の腕が、胸の中へと私を抱き寄せる。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかった。川瀬に、もしものことがあったら。ヴァンスが川瀬に、なにをするのかを考えたら恐ろしかった」
強く抱き締める力とは裏腹に、今にも消え入りそうな弱々しい声が、頭上から降りかかる。
「怖いものなんかない冷静な院長なのに、さっきのヴァンスが怖かったんですか」
「今までの人生で怖いものなどなかった。でも、さっきわかった」
揺れる瞳が泣きそうに、私を見つめる。
「川瀬には俺が恐れるものが、なにかがわかるか?」
初めて見た院長の表情に驚いてしまい、微かに首を横に振った。
「俺にとって、なによりも恐ろしいことは、川瀬を失うことだ」
本当に恐ろしかったみたい。
ふだん、なにがあってもひるまない強気で冷静な院長が、大きな音を立てて喉を鳴らしたのが耳に入ってきた。
それより、今、院長は私を失うことって言った?
「俺が、ヴァンスに噛まれたのを目の前で見て、真っ青な顔をして震えていた。あれだけ怖がっていたのに、よくヴァンスのケージに入ったな」
瞳は哀しそうなのに、口もとは少しうれしそに緩んでいる。
「俺のためになんか馬鹿だよ、怖かっただろう」
ふだんはピンと伸びた背中を屈めて、しっかりと抱き締める院長が時間を止めたように、私たちは静寂に包まれた。
「さっき庇うのは当たり前って。ことあるごとに庇ってないっておっしゃってたのは、嘘だったんですか」
院長の腕の中から見上げたら、思ったよりも顔が近くて、慌てて瞳をそらした。
「庇ったことを告げたら、繊細な川瀬は俺の体を傷つけたと思い悩み、心に深く傷を負い自分を責め続ける」
私を想って、頑なに庇っていないって冷たく突き放していたんだ。
院長の優しさに、また気づいた。
「もう言わせてくれ、好きだから庇った」
「庇うことがですか?」
「なぜ、ひとりでケージに入った。危険なことの判断ぐらいできるだろう」
「院長が私を庇って、怪我をしたから申し訳なくて」
「庇うのは当たり前だ、甘えろよ」
ため息をついて、首を左右に振っている。
「庇うってなんですか」
問いかけたのに、そんな言葉は知っても無意味だと言うように無視された。
「ヴァンスが、縄張りを脅かされそうになったときの不安や恐怖はわかっているだろう。神経過敏になり攻撃的になった光景を忘れたのか」
揺れる瞳が、左右の目を交互に見つめて訴えてくる。
「俺に心配させるな!」
初めて強い語気で詰め寄ってきた院長の迫力が怖くなり、肩がぴくりと上がる。
私の両肩に置かれた院長の両手が、心と体を大きく揺さぶり、伝わる想いと腕の力強さも怖くて、固く目を閉じた。
と、両肩が軽くなり、スクラブの袖から表れる逞しい二の腕が、胸の中へと私を抱き寄せる。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかった。川瀬に、もしものことがあったら。ヴァンスが川瀬に、なにをするのかを考えたら恐ろしかった」
強く抱き締める力とは裏腹に、今にも消え入りそうな弱々しい声が、頭上から降りかかる。
「怖いものなんかない冷静な院長なのに、さっきのヴァンスが怖かったんですか」
「今までの人生で怖いものなどなかった。でも、さっきわかった」
揺れる瞳が泣きそうに、私を見つめる。
「川瀬には俺が恐れるものが、なにかがわかるか?」
初めて見た院長の表情に驚いてしまい、微かに首を横に振った。
「俺にとって、なによりも恐ろしいことは、川瀬を失うことだ」
本当に恐ろしかったみたい。
ふだん、なにがあってもひるまない強気で冷静な院長が、大きな音を立てて喉を鳴らしたのが耳に入ってきた。
それより、今、院長は私を失うことって言った?
「俺が、ヴァンスに噛まれたのを目の前で見て、真っ青な顔をして震えていた。あれだけ怖がっていたのに、よくヴァンスのケージに入ったな」
瞳は哀しそうなのに、口もとは少しうれしそに緩んでいる。
「俺のためになんか馬鹿だよ、怖かっただろう」
ふだんはピンと伸びた背中を屈めて、しっかりと抱き締める院長が時間を止めたように、私たちは静寂に包まれた。
「さっき庇うのは当たり前って。ことあるごとに庇ってないっておっしゃってたのは、嘘だったんですか」
院長の腕の中から見上げたら、思ったよりも顔が近くて、慌てて瞳をそらした。
「庇ったことを告げたら、繊細な川瀬は俺の体を傷つけたと思い悩み、心に深く傷を負い自分を責め続ける」
私を想って、頑なに庇っていないって冷たく突き放していたんだ。
院長の優しさに、また気づいた。
「もう言わせてくれ、好きだから庇った」
「庇うことがですか?」