恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「そんなに瞼にキスをされたいのか」
 そっと睫毛に吐息をかけてくる。

 小さく笑い声が聞こえて、熱い息が唇に降り注ぐ。

「院長」
「どうした」

「院長以外の人とキスなんて言わないでください。院長以外は嫌です、院長がいい」 

「鼻にかかった、そんな甘ったるい声を出すな」 
「院長じゃなくちゃ嫌です」  

「安心していろ、川瀬を離す気は毛頭ない」
 肩の力が抜けてしまい、体が床の上に溶けていっちゃいそうでふらついた。

「これだから守りたくなる」

 院長の抱き締める力が強くなり、今までの溢れ出す想いを伝えるみたいに、激しく唇を重ね合わせてくる。

 持て余す私の心は、どうしようもないほど院長が大好きと叫び声を上げ、求めるままにしがみついた。

 がっしりと逞しい腕は、大雨のときとおなじなのに、今は抱き締める力に強い想いが込められているから、筋肉に包まれて守られているみたい。

 心臓の音が異様に激しさを増す。院長が大好き。
 この胸の高鳴りは、もう抑えきれない。

 段々と力がこもる指先に想いを乗せて、うんと抱きついた。
 私の気持ちを感じ取って、自信につながったの?

 安堵の胸を撫で下ろしたような、院長の漏らす吐息が、胸に耳に熱く熱くかけめぐる。

「毎日、川瀬が愛おしくてたまらなくなっている。毎朝毎夜毎分毎秒、この愛は生涯を賭けて現在進行形だ」

「言葉が出ないです」

「言葉はシンプルだ。ずっと前から俺のことが好きだろう、その気持ちを言え」  

「好きでした、ずっとずっと院長が大好きでした」

「過去形の男なんかに唇を許すな」
「イジワル」
「そのすがるような目が、いじめたくなる」 
 また顔を寄せてくるから、そっと目を閉じる。

「目を閉じたな、俺の唇が欲しいのか」

 なかなか唇が重なり合わないから、そっと目を開けたら口角を上げて、真っ白な歯の隙間から舌を見せつける。

「にやにやしながら、じっと顔を見つめて騙しましたね。もう、本当にイジワル」

「騙していない。顔を近づけたら目を閉じたのは川瀬だ、なにが欲しいんだ?」

「待てじゃなくて、おかわりの命令をしてください」
 そっと甘く囁く唇と潤む瞳が、院長の濡れた唇に惹き寄せられそうになる。

「発想がユニークだ」
 とろけそうに目尻を下げて、顔を寄せてくるから今度こそ。

「おかわりは?」
 低い声が熱い息とともに耳に触れた。

「おかわり」
 どきどきしながら囁いてみたら、リラックスした柔らかな唇が、目を閉じる私の唇を優しく愛しそうに奪う。

 この幸せをくれたDのヴァンス、ありがとう。
 あなたのDは、DはDでもDANGERのDじゃない。

 DESTINYのD。
 DRAMATICのD。
 DREAMのD。
 少なくとも院長と私にはね。

「ヴァンスに付き添ってあげないと。送ってあげられなくてごめん」 
< 192 / 239 >

この作品をシェア

pagetop