恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「なんて、私が言うとでも思ったわけ?」
涙を流す勢いで笑い声を上げる。
「引っかかった、引っかかった。二人の豆鉄砲を食らったような顔」
目尻を拭いながら、声を漏らして笑っている。
「冗談がすぎるぞ。川瀬が泣きそうだ、泣かすなよ」
香さん、心臓に悪いよ。私の方こそ、腰から床に崩れ落ちていきそう。
「大丈夫か」
よろめきそうな私の体を、院長が隣で支えてくれた。
「はい」
「やり過ぎだぞ」
院長が、私に向けて浮かべた優しい顔から、真顔に変わって香さんを叱る。
「ごめんなさい。まさか、こんなにきれいに引っかかるとは思わなかったから」
「ほどほどにしろよ、度を越す冗談はやめろ」
「わかったわ、川瀬さん、ごめんね」
「大丈夫です」
私の言葉に香さんが安心したみたい。本音は大丈夫じゃないよ、心臓が痛い。
「ところで、上手に隠してたつもりなの? あなたたちの態度、とってもわかりやすかった」
何事もなかったかのように、院長に向かって話しかけている。
「いつからなの?」
「おととい」
「もう報告する? 律儀ね。まあ、真面目で誠実な明彦らしいわね」
さすがブラコン気味の香さんだけあって、院長を褒めることを忘れない。
「いつごろから好きだったの?」
興味津々で私たちの顔を交互に見て、答えを待っている。
ごめんなさい、わからない。
口をすぼめて首を傾げると香さんの目は、私の隣で視線を宙にぱたぱた飛ばしている、院長に向けられた。
「またまた、とぼけちゃって」
「とぼけていない」
「本当に本当なの? お互いに気がつかないって、どれだけ鈍感なの、信じられない」
呆れて首を振って、笑いまで呆れて、やれやれって感じ。
「プリンのときなんて、二人の熱い想いでプリンが溶けちゃうかと思ったほど、二人の世界だったんだから」
二人とも、この空間が嬉しくて仕方がないって想いが、顔から全身から溢れ出ていたんだって。
「川瀬さんの誕生日を忘れたときは、明彦が『なにをプレゼントしたら女性は喜ぶ?』なんて聞いてきたから、びっくりしたわ。明彦が、そんなこと聞いてきたのは、初めてだったから」
どれだけ驚いたのか。院長と瓜二つのきれいな顔から目玉が飛び出そう。
「誰にプレゼントだなんて聞くまでもなかったわ。だって、明彦ったらわかりやすいんだもの」
隣の院長を、つつっと軽く突っついたら、ふんと鼻をすすり、しれっと澄まし顔を決め込む。
「川瀬さんは川瀬さんで、『院長にお礼がしたいんです。どうしたら喜ぶか香さんなら、お姉さんだからわかりますよね?』って、凄い勢いだったわね」
よく覚えていらっしゃる。
「お互いが、そんなふうに私に聞いてきてたなんて、今知ったでしょ」
いたずらが成功した子どもみたいに、きらきら輝く瞳が、にこにこしながら私たちの瞳を目で追っている。
「そうだったのか」
顔はまっすぐに前を向いたまま、香さんにわからないように、私に囁いてくる。
「私は知ってましたよ」
顔は動かさずに腹話術師みたいに、なるべく口を開かないで囁いた。
「なにを?」
「誕生日プレゼントのブーケの送り主です」
「なぜ」
低く響く声が優しく聞いてくる。一瞬、横顔を仰ぎ見て、口だけ動かした。
涙を流す勢いで笑い声を上げる。
「引っかかった、引っかかった。二人の豆鉄砲を食らったような顔」
目尻を拭いながら、声を漏らして笑っている。
「冗談がすぎるぞ。川瀬が泣きそうだ、泣かすなよ」
香さん、心臓に悪いよ。私の方こそ、腰から床に崩れ落ちていきそう。
「大丈夫か」
よろめきそうな私の体を、院長が隣で支えてくれた。
「はい」
「やり過ぎだぞ」
院長が、私に向けて浮かべた優しい顔から、真顔に変わって香さんを叱る。
「ごめんなさい。まさか、こんなにきれいに引っかかるとは思わなかったから」
「ほどほどにしろよ、度を越す冗談はやめろ」
「わかったわ、川瀬さん、ごめんね」
「大丈夫です」
私の言葉に香さんが安心したみたい。本音は大丈夫じゃないよ、心臓が痛い。
「ところで、上手に隠してたつもりなの? あなたたちの態度、とってもわかりやすかった」
何事もなかったかのように、院長に向かって話しかけている。
「いつからなの?」
「おととい」
「もう報告する? 律儀ね。まあ、真面目で誠実な明彦らしいわね」
さすがブラコン気味の香さんだけあって、院長を褒めることを忘れない。
「いつごろから好きだったの?」
興味津々で私たちの顔を交互に見て、答えを待っている。
ごめんなさい、わからない。
口をすぼめて首を傾げると香さんの目は、私の隣で視線を宙にぱたぱた飛ばしている、院長に向けられた。
「またまた、とぼけちゃって」
「とぼけていない」
「本当に本当なの? お互いに気がつかないって、どれだけ鈍感なの、信じられない」
呆れて首を振って、笑いまで呆れて、やれやれって感じ。
「プリンのときなんて、二人の熱い想いでプリンが溶けちゃうかと思ったほど、二人の世界だったんだから」
二人とも、この空間が嬉しくて仕方がないって想いが、顔から全身から溢れ出ていたんだって。
「川瀬さんの誕生日を忘れたときは、明彦が『なにをプレゼントしたら女性は喜ぶ?』なんて聞いてきたから、びっくりしたわ。明彦が、そんなこと聞いてきたのは、初めてだったから」
どれだけ驚いたのか。院長と瓜二つのきれいな顔から目玉が飛び出そう。
「誰にプレゼントだなんて聞くまでもなかったわ。だって、明彦ったらわかりやすいんだもの」
隣の院長を、つつっと軽く突っついたら、ふんと鼻をすすり、しれっと澄まし顔を決め込む。
「川瀬さんは川瀬さんで、『院長にお礼がしたいんです。どうしたら喜ぶか香さんなら、お姉さんだからわかりますよね?』って、凄い勢いだったわね」
よく覚えていらっしゃる。
「お互いが、そんなふうに私に聞いてきてたなんて、今知ったでしょ」
いたずらが成功した子どもみたいに、きらきら輝く瞳が、にこにこしながら私たちの瞳を目で追っている。
「そうだったのか」
顔はまっすぐに前を向いたまま、香さんにわからないように、私に囁いてくる。
「私は知ってましたよ」
顔は動かさずに腹話術師みたいに、なるべく口を開かないで囁いた。
「なにを?」
「誕生日プレゼントのブーケの送り主です」
「なぜ」
低く響く声が優しく聞いてくる。一瞬、横顔を仰ぎ見て、口だけ動かした。